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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

12 『ホームレス』問題はハウジングファーストから
―路上は最悪の場所ではない―

認定NPO法人世界の医療団理事/精神科医
森川すいめい

 

5.路上生活はホームレス状態の人の一部にすぎない

 路上生活に至るまでに苦しい思いをし、至った途端かその直前に自殺をしてしまう人は、その実態は不明ですが少なくないでしょう。警察の統計でも、毎年住所不定の自殺者がいます。厚生労働省の統計では日本全国に約7000人の路上生活者がいるとなっています(統計の取り方に問題があり実態はもっと多いことを厚労省の担当の人たちは知っています)。人数そのものは年々減っています。路上生活に至りやすい職種である建築などの肉体労働の仕事が減り、その母数が減ってきたことや少子高齢化が大きな要因の一つです。しかし、不安定な仕事は無数にあります。アパート生活を維持する給料を得られない人は多く、若い人たちにはこうした不安定な仕事に就き、マンガ喫茶やサウナ、ファストフード店で夜を明かしながら生活をする人もいます。その実数は、日本ではわかっていません。『ホームレス』というと、日本では路上生活者だけをさしますが、これは欧米のホームレスの定義と異なります。欧米では、『ホームレス』というのは、住まいを失った人のことを言います。住まいを失ったら即路上生活に至るわけではありません。友人の家や親せきの家に寝泊りをしたり、シェルターにいる人もいます。その数を計算すると、アメリカでは100万人、フランスでは30万人とか、そういう人数になります。フランス国民は、自分がいつホームレスになるかわからないという不安を持っている人が多くいるため、国もホームレス対策に年間4000億円を投じています。

 一方で、日本は、ホームレス対策というと路上生活者だけをさすので、その支援は微小です。自分が路上生活者になるかという不安をもつ人はそこまで多くはないかもしれませんが、住まいを失う不安を持つ人は、もう少し多いことは想像できます。国がこのように定義を誤っているため、ホームレス対策が日本ではとても遅れています。それどころか、路上生活じゃなくなることがホームレス対策になるので、様々な悪徳業者が運営するシェルターに人間を閉じ込めています。シェルターに入らないなら路上生活をしなさいと、選択肢のない選択が迫られます。シェルターに長期に入れられること、選択肢を奪われ続けることは自尊心を傷つけます。自尊心が回復しなければ、いつまでたってもホームレス状態から脱することはできません。日本のホームレスの大きな問題点がここにあるわけです。

※自治体によってはこうした問題に積極的に取り組み、よい支援をしているところもあります。

 

6.今求められるのは「ハウジングファースト」/まとめ

1.路上生活の場所以外に自由はない/2.路上生活に至った背景の多くは孤立
3.路上生活は苦しい/4.お金がないことは機会の不平等となる
5.路上生活はホームレス状態の人の一部にすぎない
6.今求められるのは「ハウジングファースト」/まとめ

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