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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

2 過重債務者問題と心理臨床

過重債務者問題研究会 主宰 松井正人


サラ金問題

 昭和30年代に急速に広がった勤め人に無担保・無保証でお金を貸すいわゆるサラリーマン金融(サラ金)は、貸し手優位の理論で営業してきた。日本人はお金のことを他人に相談するのは恥ずかしいと考えるところがあって、特に都市部では隣近所に借金のことを知られるのは恥ずかしいと考えていたようだ。サラ金はそれを逆手にとって、最初は少し大きな声で、隣近所に聞こえるように「○○金融ですが」などと言って多少の延滞の取立てに成功した。これがエスカレートして、夜中に大声で脅すような取立てを行い、返せない人を追い込み自殺や一家離散を招いたのがいわゆる昭和のサラ金問題である。当時のサラ金経営者も、「業者間の競争激化のため残高競争となり審査基準の緩和や甘い与信の横行につながった」と認めている。甘い与信で、返せないとわかっている人にどんどん貸すのだから大変である。とうとう政府も見過ごすことができず、昭和58年の貸金業規制法(いわゆるサラ金規制法)が成立したのだ。この法律の大きな柱は、それまで無登録で営業できた貸金業者を登録制にし、きちんと与信を行わせるとともに取立て行為の規制を行ったことだ。

平成のサラ金問題

 貸金業規制法施行以来、我が国の景気は拡大し、平成初期にはいわゆるバブル景気と言われた時代が訪れた。サラリーマンの給与も右肩上がりで上昇し、たとえ高金利であっても借金の問題は表面に出てこなかった。しかしバブルがはじけ景気が後退していくと、少しずつ過重債務者の問題が社会問題として表出してくる。そのような中でも貸金業者は成長を続けていたのだ。当時のサラ金経営者は、「平成7年の阪神淡路大震災が一つの転換期だった」と回想している。関西地区に大きな被害をもたらしたが、その後、復興需要が高まり政府も公共事業に大きく予算をつけていく。そこで主に工事現場などで働く人の需要が高まり賃金も支払われる。そんな労働者にお金を貸せば、たとえ高金利でも問題なく回収ができたようだ。しかし復興需要も長くは続かなかった。借りられる人は減っていったはずだが、勢いのついた業者は止まることができなかったのだ。無人契約機やATMを整備して投資を続け、テレビのゴールデンタイムに女性が踊るCMや子犬のCMを競うように放映して顧客を増やし、債務残高競争を再び行ってしまったのである。結果的に甘い与信が横行し、返せない人に貸してしまうという悪夢が繰り返された。さらに悪いことに、当時の貸金業者たちは法令を遵守しているように装い、規制されていない法の網をかいくぐるがごとく、自社の債権だけ確保するため法律すれすれの取立てを行い、他人に肩代わりさせたり他社から借りて弁済させたりと、なんでもありの状態になってしまったのだ。住宅ローンで活用されている団体信用生命保険も悪用された。お金を貸す際に業者が負債者名義で当該生命保険を契約し、自殺に追い込んで保険金から回収する荒業も行われた。他社からの肩代わりも正規業者の必要はなく、取立て行為の規制を受けない闇金から借りさせて自社の債権を回収し、その後その闇金が恐ろしい取立てをしていったのだ。

3.貸金業法の改正と闇金規制の強化/消費者庁の発足

1.はじめに/過重債務者問題とは/借金は悪なのか
2.サラ金問題/平成のサラ金問題
3.貸金業法の改正と闇金規制の強化/消費者庁の発足
4.過重債務者の問題/お金の問題は必ず解決できる

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