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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

3 非正規労働(ワーキングプア)とメンタルヘルス

NPO法人POSSE 代表  今野晴貴


3、非正規雇用と生活保護

・生活保護相談の実態

 POSSEでは生活保護申請の相談も受け付けているが、若者からの相談が来るケースはほとんど、就労中のハラスメントや過重労働によるうつ病罹患が申請の理由となっている。これは今話題の「ブラック企業」の問題だ。
ブラック企業とは、若者を大量に採用し、使い捨てることで利益を上げる会社のことを指す。若者を育成せず、瞬間的に利益を最大化するために若者を使いつぶす。新卒の若者たちは、過酷な就活を乗り越え、正社員として採用されると長期雇用を期待する。そして、その裏側では、「正社員であるから、過酷な命令でも引き受けなければいけない」と考えている。だが、ブラック企業はその期待を裏切り、利用し、最初から使い捨てを意図しながら、過酷な長時間労働やパワハラを強いていく。

 そもそも、日本では長時間労働やパワハラなどは昔から珍しくなかったが、ブラック企業ではより過酷になっている。かつては雇用を維持し、若者の長期的な育成が前提となっており、ある程度の歯止めとなる労働組合もあった。だが、ブラック企業は、成長企業に多く、とくに労働組合のないような新興産業が顕著だ。そのため、より過酷な長時間労働やパワハラがまかり通るのだ。

 こうして新卒正社員が、すぐに選別や使い捨ての対象となった場合、うつ病を患ったままに自己都合退職をしてしまう。こうなると、雇用保険の受給も難しい。こうした新卒からの相談の場合、両親に相談者を支えるだけの資力がない場合、もはや生活保護以外に使える手段はない。若年労働者が生活保護へと「転落」する構図は、ほとんどが「うつ病罹患→働けない→生保申請」というルートに整理できる。そして生活保護を受けないのであれば、うつ病に罹患しながら非正規雇用で働き続けるしかない。

・「生保→非正規」、メンタルヘルス

 だが、生活保護を受けられたとしても安心はできない。生活保護行政では、受給者を減らすために申請を拒否し、生活保護を受けさせない「水際作戦」が有名だが、生活保護受給が開始されてからも、保護から排除して追い出すという違法行為が広がっているからだ。

 その一つが「就労指導」によるものである。この「就労指導」は、生活保護打ち切りを目的としているため、就労先が低賃金であっても構わない。ましてや、正社員ですらある必要がない。生活保護からの「自立支援」や「就労支援」が、非正規雇用で働くことを強制し、そこからメンタルヘルスの問題を抱えるというサイクルが見てとれる。

・自立支援と就労阻害要因

 新卒の若者は就職活動において、「とにかく正社員になれ」という圧力を受け続ける。正社員としての就職率を上げることを目的にする大学や高校では、ブラック企業に就職させることもいとわない。そしてブラック企業に就職した若者はメンタルヘルスに問題を抱え、非正規雇用や生活保護に「転落」するしかない。

 さらに、生活保護を受けてからも「自立支援」の名の下に非正規雇用の就職に追い込まれ、それを「自立」と見なされて、生活保護を打ち切られてしまう。

  「正規就労」だけでも「自立支援」だけでも、このサイクルを断ち切ることはできない。このサイクルを断ち切るためには、ブラック企業対策や正社員のありかたを問うことが重要になるだろう。

4.非正規雇用のメンタルヘルスへの対策

1.はじめに/非正規雇用の広がりと変化
2.非正規雇用問題の変化とメンタルヘルス問題
3.非正規雇用と生活保護
4.非正規雇用のメンタルヘルスへの対策

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