中越学校メンタルヘルス研究所 井上 惠 1.はじめに 私は新潟県公立中学校校長を10年間務め、2013年3月末に退職しました。教諭であった時には数学教育と道徳教育に力を注ぎましたが、次第に非行や不登校、いじめなど普通は避けて通りたい子どもに強く心惹かれるようになりました。そして彼らの保護者や教師、それぞれの関係性や生い立ち、居住する地域性などに関心が広がりました。 この数十年で、日本の教育を取り巻く社会環境や教育行政は目まぐるしく変容しました。それでも「変わらないもの」もあります。なぜなら「子どもが育つみちすじ」に基本的に飛び級はなく、時間軸にある程度拘束された順序性は概ね不変だからです。(参考1)2)) また教育学には心理学や医学よりも長い歴史があります。ヒトは未熟な状態でこの世に生を享けその瞬間から教育は始まっており、当然のことです。その延長上に学校教育というシステム、義務教育制度があります。しかし現在、このシステムは十分適切に機能しているとは言い難く、大津市中学校や桜ノ宮高校の事件は記憶に新しいところです。 それでも日本における学校教育は「子どもを社会的存在にする」ためのシステムとして現時点では代替が難しいものであり、歴史的な果実もそれなりにあったと考えます。 この稿では私が出会った事例を元に、国民のメンタルヘルスの保持と向上のため学校教育が担うべきことを述べます。 なお、「学校メンタルヘルス」とは「学校におけるメンタルヘルス」と定義され、主語は「児童生徒」「教職員」「その他、保護者など学校の関係者」の3つと理解されます。
1.はじめに |
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