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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

4 学校メンタルヘルスと教師の役割

中越学校メンタルヘルス研究所 井上 惠


4.学校メンタルヘルスにおける教師の役割

 子どもは狭い家族内社会から広い世界に「自分という舟」を漕ぎ出してゆきます。親は大切な存在ですが、親の力だけでは子どもは社会的存在になりません。誰か「家族外の魅力的な存在」が誘ってくれることが大切です。いわゆる「重要な他者」SignificantOthersです。教師は「重要な他者」になり得る候補なのです。(参考1)2)6)7))

 ですから、第一に「先生は魅力的」であってほしい。

 そして魅力で惹きつけることは学校教育の歴史が示すとおり、「教科学習」において達成されねばなりません。教科指導における子どもと教師のコミュニケーションスタイルは通常のそれと異なる構造をもっています。そこで「え?不思議だな。調べたい!知りたい!」という子どもの好奇心を刺激し、学びを進めてゆきます。子どもの家庭環境に切ないことがあっても「教科を学ぶ」ことは「すっきりした論理の世界」に子どもを誘うことです。つまり科学的な世界=scienseを共有=conします。つなげますとconsciense=良心となります。すなわち、筋道の通った論理の世界を共有することこそ、子どもの生涯にわたる良心の源を培うのです。大量の知識を即座に正確に再現することや機械的スキル獲得を強いるのではなく、「学問の持つきちんとした論理の世界」を教師は子どもと共に体験してゆく。これこそ、子どものメンタルヘルス向上に教師が出来ることであり、およそ心理的なアプロ−チより大きな効果があります。これは教育学の長い歴史に基づく貴重な経験知です。

 第3に「子どもに関心をもち、子どもと遊べる教師」であることが必要です。子どもの背景は様々ですが、1人1人に「観察しながらの参加」=participant observationが出来ることです。子どもの好きなことに興味を持ち、その世界に関心を持つ教師でありたい。厳しい学習も大切ですが、「健康な退行と立ち直り」=healthy regression in the servise of the egoを子どもに提供できる教師であってほしい。このことは教師自身のメンタルヘルス向上にも繋がります。その意味で、学校における関係性=mutualityはきわめて重要であり、学校のもつグル−プダイナミクス機能の中核です。

 第4に、教育の営みは時間的な短縮と馴染みません。ICTの発達で通信速度や容量が何十万倍、何ギガ倍のオ−ダ−で速くなろうとも、ヒトが歩行できるのにかかる時間が1年からいきなり1週間になるわけはありません。人間の発達とはそういうものです。ですから「繰り返し繰り返し行われること」、日常の地味な営みを大切にするマニュファクチャ−の習慣を忘れてはいけません。日常の営為が積み重なり、それが文化になります。格差や貧困と言うとき、経済的な面もさることながら文化的な面を無視することは出来ません。

 日常の営為は実に地味(じみ)なものです。しかしそれが積み重なった文化は地味(ちみ)となります。すなわち「土」です。そして子どもの前に次々現れる教師達はいわば「風」です。風と土が相まって、それは子どもを取り巻く「風土」となるのです。そこに子どもという「花」が咲くのだと私は考えています。

5.おわりに〜格差社会とメンタルヘルス

1.はじめに
2.学校メンタルヘルスについて
3.事例を一つ
4.学校メンタルヘルスにおける教師の役割
5.おわりに〜格差社会とメンタルヘルス

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