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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

5 犯罪被害者とメンタルヘルス

認定NPO法人大阪犯罪被害者支援アドボカシーセンター専門支援員
武庫川女子大学文学部講師 大岡由佳


犯罪被害者の法的サポート制度

 そもそも、犯罪被害者となると、加害者にその保証をしてもらえるだろうと思われがちである。しかし、多くの場合、被害者の医療費や慰謝料などを加害者から最後まで支払われることは希である。残念ながら慰謝料どころか謝罪の意すら示さないケースも多いのが実情である。

 しかし、平成16年に犯罪被害者等基本法が施行され、犯罪被害者を取り巻く環境は大きく改善されてきた。今では、各都道府県や市町村が条例を作り、見舞金や貸付金、公営住宅入居の配慮など、被害者が利用できる制度を行政レベルで提供されるまでになった。犯罪被害者等給付金制度と呼ばれる給付金制度の適用範囲も見直され、犯罪被害者法律援助(民事裁判の弁護士費用立替等)の救済制度も利用できるようになった。司法面についても改革が行われ、犯罪被害者・遺族が求めていた公判手続きの優先傍聴権が確保され、公判記録の閲覧謄写権が認められるようになった。加害者側に損害賠償を求める際に、刑事裁判後に改めて民事訴訟を起こさなくても強制執行ができるように被害者の便宜を図る刑事和解や損害賠償命令制度が創設された。また、性犯罪被害者や年少の被害者の場合は、従来の法的手続きがとりわけ二次被害(事件後さらに傷つくこと)につながりやすいとの観点から保護の必要性が認識され、公判の証人付添人制度と遮蔽措置(証人と被告人との間に衝立をおいて互いに見えないようにする制度)、ビデオリンク方式(法廷との間で画像及び音声の送受信ができるようにした別室において証言することが許される制度)の措置が導入された。更に、刑事裁判に参加することを申し出た時に裁判に参加できる被害者参加制度も開始されている。

 このように、以前に比べると格段に犯罪被害者の人権が考えられるようにはなった。これらの法的な変更によって、被害者が二次被害に苦しむことも少なくなり彼・彼女らのメンタルヘルスは、少しは保てるようになったといえる。しかし、不起訴になった事案や被害届すら出されない性被害の事案も含む事件全体数としては、それら制度が適用されるのは被害者のごくごく一部となる。法的には守られるようになっても、被害自体が被害者に与えるトラウマがあまりに深刻で、法的な権利を行使できない状態に陥っている人が多いのだ。その中に、サポート機関・医療機関等に結びつかず、種々の制度を知らないで泣き寝入りの生活を余儀なくされている人も多く含まれる。

3.犯罪被害によって生じるメンタルヘルスの悪化の行き着く先

1.はじめに/犯罪被害者が陥る心身等の状況
2.犯罪被害者の法的サポート制度
3.犯罪被害によって生じるメンタルヘルスの悪化の行き着く先
4.再犯防止の取り組み−被害者理解の視点から
5.犯罪被害者のメンタルヘルスに絡む新たな視点/最後に

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