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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

5 犯罪被害者とメンタルヘルス

認定NPO法人大阪犯罪被害者支援アドボカシーセンター専門支援員
武庫川女子大学文学部講師 大岡由佳


犯罪被害によって生じるメンタルヘルスの悪化の行き着く先

 一般には、「人の噂も75日」ということわざがあるように、身近で起こった事件であっても、時とともに忘れ去られていくものだろう。しかしながら、当事者にとっては、その犯罪被害は彼等の生涯にわたって、常に心の大部分を占める重大な出来事になってしまう。その出来事を境に、それらの記憶に頭を占領され、対人関係や生活など生きること自体に影を落としていくことになる。誰からも救いの手が差し伸べられていないと感じる中で、どんどんと孤独と無援な状態になり生活問題に直面していくのが犯罪被害者というものなのだ。たとえ貧困の極限に晒されたとしても、なお外に声を出していけない、また出そうとしても声が届かないパワーレスな状況におかれてしまう。実際、自ら“犯罪に遭いました”と被害者が相談援助職である他者に助けを求めるようなことは稀なのだ。性被害や虐待など、第三者のいないところで行われた犯罪であれば、なおさら“私が悪い”といった歪んだ認知と不必要な罪の意識も生まれ、被害の事実は闇に葬り去られてしまう。

 しかも、これらの被害者の問題は、発達段階の初期に起こるほど深刻な結果を招くといわれている。例えば、虐待被害者が大人になる過程で、自傷、薬物乱用、売春などの自己破壊的行動を繰り返すようになることが知られている。子どもの虐待と家出の関連3)は28%?78%といわれているが、そのような環境と結びついているのだろう。また、彼ら被虐待児の2割ほどは自らが大きくなった時に虐待親として加害者と化してしまうとも言われている。さらに、女性受刑者の調査では、受刑者の3人に1人は、重大な性被害(レイプが8割)を受けていたと報告4)されている。児童自立支援施設の子ども(平均年齢は男女とも14歳)のセクシュアルヘルス調査5)では、女子の性被害体験率は6割と過半数に上り、PTSD症状を有すると判断されるハイリスク群は男子43%、女子71%に上っていたという報告もある。

 このように、犯罪被害とは、一生を左右するぐらいの出来事であり、生活を悪循環たるものへと化してしまうことがある。決して、被害者の多くがそのようになるわけではないことは断言しておかなければならないが、被害者の中には、何の助けのない中で苦悩し、薬物に頼ったり自傷するなど自分を痛めつけるか、或いは犯罪等という形で他者を傷つけてしまうことが出てくることがある。そもそも被害者としてケアされるべき対象が、ケアされぬまま社会に放置され、加害側に回ってしまうことがあるとは、誠に遺憾なことであると言わざるを得ない。

1 不良行為やその恐れのある児童及び家庭環境などの理由により生活指導が必要な児童を入所あるいは通所させる施設

4.再犯防止の取り組み−被害者理解の視点から

1.はじめに/犯罪被害者が陥る心身等の状況
2.犯罪被害者の法的サポート制度
3.犯罪被害によって生じるメンタルヘルスの悪化の行き着く先
4.再犯防止の取り組み−被害者理解の視点から
5.犯罪被害者のメンタルヘルスに絡む新たな視点/最後に

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