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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

8 青少年の社会的自立とメンタルヘルス
〜社会的養護と今日の子ども家庭をめぐる課題〜

社会福祉法人山梨立正光生園
理事長  加賀美尤祥

 


自立を困難とする子どもの増加

 先述してきたように、我が国の産業・経済を中軸とする近代化は、欧米、先進各国と同様、社会や家庭の構造を変容させ、それに伴う家庭の子ども養育力の脆弱化としての家庭内子ども虐待を進行させてきたといえる。「子ども虐待」が子どもにもたらすものについては、多くの精神医学や心理学の分野から「愛着障害」、「発達障害」とその重層化をもたらすとともに、それを根源とする子どもの発達的問題行動について多くの研究報告がなされている。ここでは、長年社会的養護の場にあり、虐待を受けたとされる子どもと向き合い、援助過程にかかわってきた立場から、これを自身の言葉に置き換えて解説を試みたい。

 家庭内子ども虐待は、子にとって親というかけがえのない特別な関係の中に起こる養育問題であるが故に、子どもに特別に強いメッセージを呈してしまうと考える。例えば、“あなたは、かけがえのない大切な存在ではない” 時に、“あなたは生きていく価値はない”などである。同時に、彼らは一様に“悪いのは自分だから” という感情を抱えている。このメッセージは、多くの子どもたちに通底するかたちで「自己感」や「自尊感」の欠如という状態像をもたらし、その結果として、判で押したように「自傷」と「他害」をセットで示す。この「自傷」は、リストカットなどや年少児の身体症状があるが、それ以上に親や大人社会が規範として求めることに反する行動をして自己を傷つけ続けることが深刻である。例えば、「万引き」、「窃盗」、「暴走」、「薬物」、「性化行動」など、そしてその先には、自ら命を…という場合もある。また、自己を否定する子どもにとって、他者は当然、自己以下であり「他害」に及ぶ。ちょっとしたトラブルで他児を「いじめ」、「暴行」に及び、それはさらに誰かれかまわず他者の命を奪うという場合もあろう。

 こうした自己感、自尊感の欠如から自傷、他害という行動表現をする子どもたちは、当然社会で他者と適切な人間関係を保ち生きていくことが困難となる。家庭内子ども虐待の増加は、今や「関係性の障害」による社会的自立を困難とする子どもたちの拡大増加につながっていると考える。

4.少子化と虐待の増加、そして国の未来/おわりに

1.はじめに/今日の子ども家庭にまつわる事象
2.戦後の近代化(高度経済成長)の流れと子ども・家庭
3.自立を困難とする子どもの増加
4.少子化と虐待の増加、そして国の未来/おわりに

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