ご挨拶日本精神衛生会とはご入会のご案内資料室本会の主な刊行物リンク集行事予定

こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

9 長期療養が必要な家庭のメンタルヘルス
〜精神障がい者家族の体験から見えること〜

さいたま市精神障がい者もくせい家族会
岡田久実子

 

「家族が受ける暴力の研究」に関わって

 平成26年度、私が所属する埼玉県精神障害者家族会連合会では、「家族が受ける暴力」についての調査研究3)に協力しました。この調査協力を連合会内の会員に提案したところ、「これまで散々苦労して、あらゆる医療機関に相談しても何の助けにもならなかったのに、今さらそんなことをして何になるのか」という強い意見が出されました。病気の本人を何とか回復させたいと、必死に向き合ってきた家族の痛切な思いが吐き出されたのです。だからこそ、私たちはこの研究に協力し、これまでタブー視されてきた「病気と家族への暴力」の問題について、きちんと考えていく必要があるとの思いで調査に取り組んだという経緯があります。調査対象は、各世帯の主な支援者2名・きょうだい1名、調査方法は、郵送法の自記式質問紙調査で、346世帯(40%)からの回答が得られました。この調査は、現在も分析中ですが、精神疾患の症状として起こる「家族が受ける暴力」の現状について中間報告の一部から紹介します。

 これまでに一度でも身体的暴力を受けたことのある家族は約6割でした。心中など死を考えるほどに追い詰められたことのある家族は、約4分の1にのぼりました。そしてこの調査から見えたこととして、調査に協力した親・きょうだいは、震災被害者と同じ位、又はそれ以上の精神的なダメージを受けている可能性があることがわかりました。私は東日本大震災で被災したある家族の方の体験を思い出しました。自宅が津波にのみ込まれる中を胸まで水に浸かりながら必死に逃げて一命を取り留めた方が、「その体験と比べても、我が子の統合失調症の発症の衝撃の方がどれほど辛く悲しい出来事であったか…」と語られたのです。

 また、家族の中でも、親よりも長く家族のケアに関わり続ける「きょうだい」も4割弱が身体的暴力を受けたことがありました。また、本人が発病した時期にきょうだいが中高生以下だった場合、きょうだいの約半数が家庭での安全や安心の不足、勉学や生活面での困難、友達や異性の交際相手との関係での困難を経験したと回答しました。同年代を生きるきょうだいには、暴力に限らず、見過ごせない影響があることがわかりました。

 この暴力の課題を考えることが、精神疾患を持つ人への偏見を助長するものであってはならないと強く思います。風邪をひけば熱が出る場合があるように、精神疾患の症状として「暴力」が起こりるという事実、そして、その多くは「身近な家族に向けられる」という事実、であるにもかかわらず、家族にはその対応の方法も知らされず、自己流の対処法で日々をやり過ごすしかないという事実があるのです。このような状況の中で、これまでに家庭内での殺傷事件が少なくない件数で起きていることも事実なのです。暴力は、親やきょうだいに深い傷を負わせ、将来的に本人との関係に悪影響を与えます。そのため、病気を持つ本人にとっても、重要な課題であることは間違いありません。この調査を通して、タブー視しているだけでは何も解決することはできない、そして何かしなければならない重要な課題であることを再確認したのです。

4.家族支援の必要性/おわりに

1.はじめに/精神疾患・精神障がいとの出合い
2.理解が難しい精神疾患・精神障がいと向き合う日々
3.「家族が受ける暴力の研究」に関わって
4.家族支援の必要性/おわりに

ご挨拶 | 日本精神衛生会とは | ご入会の案内 | 資料室 | 本会の主な刊行物 | リンク集 | 行事予定