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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

9 長期療養が必要な家庭のメンタルヘルス
〜精神障がい者家族の体験から見えること〜

さいたま市精神障がい者もくせい家族会
岡田久実子

 

家族支援の必要性

 精神疾患を持つ人の家族体験からメンタルヘルスについて考えてきましたが、このように病気との出合いから始まり、その回復の長いプロセスに寄り添い、病気の症状などから大きな影響を受ける家族に対する支援の必要性を、本人のケアのためだけではなく、家族自身がより良い人生が送れるようになるためにも必要であると強く思っています。

  1. 神科医療における家族支援
    精神科医療においては、家族への情報提供の不足という大きな課題があります。ぜひ、精神科医療に家族支援を診療報酬化し、本人の病気・病状についての説明や対応について、家族の不安を増長させないためにも、全家族構成員に対して適切な時期に適切な内容の情報提供がされる体制が必要であると考えます。

  2. 訪問型の家族支援
    精神疾患の症状から、ひきこもりがちな本人 を抱えた家庭は多く存在します。病状が不安定な時や未治療の状態や医療中断をしている場合など、本当に医療や支援が必要な時ほど、本人は医療や支援に出向くことを拒否するという傾向が強いのです。いざという時に、確実に家庭に出向いてくれる医療体制・支援体制が必要です。
    Aさんは、地域で活動を始めたACT(包括型地域生活支援システム)という医療を含む訪問型の支援を利用し始めたことがきっかけで、「何事か問題が起きても、ACTのスタッフの皆さんが親身になって対応してくれるので、まるで家族が増えたみたいですよ。」と語り、長い間手放せなかった睡眠薬を飲まずに熟睡できるようになったそうです。

  3. 精神科医療関係者、地域の支援者の意識改革の必要性
    平成26年までは保護者制度という法律により、重度精神疾患を持つ人は保護者が引き取ることが義務付けられていたため、精神科病院からの退院先の多くが家庭でした。この制度は、家族に大きな負担を課すばかりでなく、本人の持つ病気から回復する力や生きる力を発揮する機会を奪ってきたと考えられます。今、保護者制度は無くなりましたが、大切なことは制度がなくなった後の医療関係者、支援者の意識改革です。これまでの慣習にならって退院先にまず家庭を選択するのではなく、成人している人であれば、その人の持つ力を引き出し、人生を取り戻すことのできる環境で生活することを考えた治療と支援が必要です。本人の自立は、本人はもちろん、家族が自分自身の生活を取り戻す契機となります。
    Bさんの場合は、30代の息子さんが、病院スタッフと地域の支援者の連携で、地域で初めての自立生活を始めました。「息子と離れてみて、自分がどれほど多くの気遣いや保護的な対応をしてきたかに気づいた」と言います。そして、十数年ぶりに、自分自身のための時間や健康状態のことを考えられるようになったそうです。

  4. 体験を活かすピアサポート活動「家族会」の重要性
    家族会では、当事者・家族の体験が精神保健医療福祉制度に活かされ、これからの当事者・家族が少しでも暮らしやすい社会を目指して活動をしていますが、現在の中心テーマは「家族支援」です。現在、みんなねっとでは、「英国メリデン版訪問型家族支援」の日本導入に向けて活動をしています。また、「家族による家族学習会」4)というセルフヘルプのプログラムが立ち上がり、全国の家族グループで実践されています。家族自身の体験から、現在の日本に必要と思われる家族支援の形を、家族自身で模索しているのです。このような力が、現状を変えていく大きな力になっていくのだと思います。

 

おわりに

 様々に家族が抱える課題はありますが、その根底に根ざしているものは偏見(スティグマ)ではないでしょうか。人は一生のうちに様々な病気と出合いますが、精神疾患には他の病気には無い特別なマイナス感情が伴います。そのことが、何よりも家族自身を苦しめています。私自身も長女の病気発症に直面し、言葉では表現しきれない苦しい感情に支配されました。そして、病気で苦しんでいる我が子を「恥ずかしい」とさえ感じてしまう自分を、どんなにか情けなく思ったことでしょう。

 しかし時間の経過の中で、病気についての知識を得て、良き理解者と出会い、自身の体験を安心して語り、他の方の体験を聴き、肯定的な対応を経験する中で、『偏見(スティグマ)は私自身の中にある』ということに気づけた時から、とても楽な気持ちになり、病気の長女を肯定的に受け入れることができるようになっていきました。どのような家族支援体制においても、この偏見(スティグマ)からの解放という視点を欠くことのない対応を、多くの家族が願っていることと思います。

1)全国精神保健福祉会連合会「みんなねっと」家族支援調査.全国精神保健福祉会連合会,東京,2009.
2)思春期精神病理の疫学と早期介入方策に関する研究班:早期支援・家族支援ニーズ調査報告書.厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業(研究代表者:岡崎祐二), 2009.
3)平成25?26年度上廣倫理財団研究助成「精神障がい者の母親が抱く持続的恐怖心とケア倫理-良好な家族関係の構築に向けて-」(研究代表者:蔭山正子)
4)NPO法人地域精神保健福祉機構コンボ 家族学習会企画委員会によるピア教育プログラム

1.はじめに/精神疾患・精神障がいとの出合い
2.理解が難しい精神疾患・精神障がいと向き合う日々
3.「家族が受ける暴力の研究」に関わって
4.家族支援の必要性/おわりに

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