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こころの健康シリーズZ 21世紀のメンタルへルス

No.10 災害時のメンタルヘルスを守るために

宮崎大学医学部看護学科  原田奈穂子


「避難所での滞在時間の長い日本」

 読者は自分の住まいと仕事場の指定緊急避難場所と指定避難所がどこかご存じだろうか?もしくはそれらの情報をすぐにスマートフォンなどで確認できるようアプリケーションを入れているだろうか?情報を探せない・探さない者、もしくは日本語を母国語としないような者や情報が届きにくい者は災害弱者になる。読者の多くが医療者もしくは医療関係者であり、災害時は支援をする立場になることが多い。しかし、支援者だからと言って被災を免れることはありえないのが災害なのである。どのような領域の災害支援の研修でも、まずは自分の安全を確保することが前提である。本稿は逃げないので、一旦冊子から手を放してでも、あなたが行くかもしれない指定緊急避難場所と指定避難所を確認してほしい。

 災害にアンテナの高い読者は指定緊急避難場所と指定避難所という言葉に引っかかるものを感じたのではないだろうか?実は自治体で避難所の名称は統一されていない。災害対策基本法では指定緊急避難場所と指定避難所を明記の上、使い分けている。指定緊急避難場所は「取りあえずの逃げ場」と考えてほしい。これらの場所は鍵が掛かっていないような場所である。対して、指定避難所は居住の場所を確保することが困難な住民にその場所を提供す施設である。多くの自治体では小中学校や公民館が指定されており、これらの施設は鍵が掛かっている。学校職員や行政職員などの施設管理者が開けられない場合、避難した住民は鍵を壊してでもこれらの施設に避難をすることができる。皮肉な話だが、鍵を壊すという普段であれば「罰せられるような事柄」を住民は求められているのである。この役割をせざるを得ない個人は、紛れもなく大きな心理的なストレスを感じるであろう。

 本稿ではこれから、居住することが前提である指定避難所についてのみ言及し、避難所と約す。前段で、日本における避難所での滞在時間は他国に比較して長いと述べた。東日本大震災では平均9か月、熊本地震では平均5か月多くの人が避難所での生活を送ることになった。正確に述べれば、他国では日本のように長期間集団が雑魚寝をするような環境は指定緊急避難場所と認識しており、指定避難所ではできるだけ普段の生活を営むことができるような環境を整えている。たとえ途上国と呼ばれるような国であっても、世帯ごとに滞在できる空間を用意することが多い。また、先進国の場合は例えばイタリアでは、居住テント内はエアコンが設置され、簡易ベッドが人数分設置。トイレは普段使用するものを変わりがないトイレがコンテナで配備され、食事はキッチンカーで専門職が作り、食堂のテーブルで食べる。因みに日本のGDPは世界3位であり、イタリアは9位である。日本は災害大国であり、世界で3番目の経済大国であるが、避難所の環境は他の先進国と比較すると隔世の隔たりを感じるのは筆者だけであろうか。

 実際、大阪や西日本の災害対応現場では住民が長居をすることを防ぐため、快適すぎる避難所であってはならないと、簡易ベッドの1つである段ボール製ベッドの使用を拒んだり、早期に避難所を閉鎖するような事態も発生した。日本は早期から心のケアの必要性を訴えるが、なぜ被災をした人の傷ついている心が更に疲弊していくのかに目を向けていない気がしてならない。急性期から精神科医療チームを派遣し、被災とその後の生活変化が死と関連あると委員会が認めると災害関連死と考える日本である。生活を整えることは、あらゆる精神科疾患治療の一部である。PTSDを防ぐことが災害後に重要視されるならば、我々はもっと防ぐことに注力することが必要なのではないかと考えるのである。因みに「災害関連死」は医学的な死亡原因ではなく、で関連性には科学的な因果関係は必須ではない。そして、読者はご存知かもしれないが、災害関連死という概念はないため、英語論文でこの事象を扱っている研究は日本で行われた研究のみである。誤解を恐れずに言うならば、日本での研究のみのため、科学的な智の集積は世界的には存在しない。


「複数の領域における協働と連携」

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「避難所での滞在時間の長い日本」
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