|
心と社会 No.126 37巻4号
巻頭言
|
睡眠障害を自立支援医療法の対象に
2006年4月1日から、従来の精神保健福祉法に基づく精神障害者通院公費負担制度と身体障害者福祉法に基づく更正医療、児童福祉法に基づく育成医療の3つの制度をまとめて自立支援医療制度という法律が施行されました。これまでは精神障害者外来通院公費負担制度の認定を受けると、外来診療の自己負担額が5%程度に減額されていたものが、重度の生活障害を起こす疾患に狭められてこの制度に包括されました。精神障害者という名前がなくなったことは大変良かったと思います。しかし主要な過眠症であるナルコレプシーと特発性過眠症はこの制度の対象となっていません。国際疾患分類ICD―10でナルコレプシーと特発性過眠症はG47神経疾患に分類されているため精神障害のF項から外れてしまったためです。4年前まではナルコレプシーと特発性過眠症などの睡眠障害は精神保健課の所管で精神障害者通院公費負担制度の対象とされていました。ところが3年前から突然対象がICD―10のF項に記載された精神障害だけと限定されてしまいました。不思議なことに「てんかん」だけはICD―10では神経疾患(G項)に分類されているにもかかわらず、精神障害者公費負担制度に入っており、今回の「自立支援医療制度」でも収録されており、簡単に認定を受けられます。てんかんは軽いものは年に1〜2回発作が起こる程度のものも自立支援医療制度の対象となるのに比べて真に不公平です。てんかんに比べて、ナルコレプシー患者は正しい治療を受けない限り毎日毎日眠気および情動脱力発作などのために重大な生活障害を受けています。重症の特発性過眠症の場合にはいろいろな治療を受けても日中長時間続く眠気がなかなか良くならないために社会活動自体が不可能になる場合も少なくありません。ナルコレプシーと特発性過眠症の患者は社会生活、職業選択、社会的自立などの上で大きな支障があり、日常的に患者の蒙っている苦痛と社会的制約は「てんかん」よりもはるかに大きいのです。
今回の「自立支援医療制度」の対象としてナルコレプシーと特発性過眠症を是非加えてほしいと思います。NPO日本ナルコレプシー協会も厚生労働省へ陳情しましたが、はかばかしい返事はもらえませんでした。国会への請願とかマスコミへの訴えなども必要と思われます。是非多くの方々のご支援をお願い申し上げます。
以下の施策は日本ナルコレプシー協会(ナルコレプシー患者会)とともに最近厚生労働省に陳情した必要な施策の要望です。残念ながら全然返答がありません。
1.ナルコレプシー、特発性過眠症などの慢性の過眠症患者を障害者自立支援法による医療費支給の対象として具体的に明記すること。
2.アナフラニールおよびトフラニールを、ナルコレプシーの情動脱力発作を抑える目的での保険適用薬として認可すること。アナフラニールおよびトフラニールは、抗うつ剤として認可されているが、ナルコレプシーの情動脱力発作にも著効があり、社会生活上不可欠な特効薬である。
3.HLA型判定(4桁)、MSLT、MWT、Orexin測定などの検査を健康保険適用検査として、睡眠障害国際診断分類(ICSD―2)に定められている診断基準に沿って睡眠障害の診断を行えるようにすること。
4.標榜診療科目に睡眠科を早期に導入すること。
現在、過眠症の治療は精神科を標榜する病院で行われているが、患者の側からすると目の悪い人は眼科に、耳の悪い人は耳鼻科にと同様に、睡眠で困っている人には睡眠科という標榜がぜひ必要である。
5.ナルコレプシーおよび関連過眠症の専門的治療をする医師を至急多数養成すること。ナルコレプシーおよび関係過眠症の潜在患者を早期に発見し治療に乗せる環境をつくること。
6.病院に受診したナルコレプシーおよび特発性過眠症など関連過眠症の薬物療法が継続的に長期に亘って行えるようにすること。
以下は日本ナルコレプシー協会の要望書にある内容説明です。
■ナルコレプシーなど過眠症患者がおかれている深刻な現状
ナルコレプシーおよびその他の関連過眠症患者は、社会的にきわめて不利な立場に置かれています。正しい治療なくしては、日常の社会生活を営むこと自体が困難だからです。しかし、現状では、患者に対する支援や、適切な治療の機会は十分とはいえず、患者の置かれている状況は深刻なものとなっています。
ナルコレプシーおよびその他の関連過眠症は、1日に何度も睡眠の発作が起こる疾患です。患者自身の意思にかかわりなく、毎日のように日中強い眠気の発作が襲ってくるのです。さらに、発作による日常生活や仕事への支障だけでなく、過眠症に対する一般の認識の乏しさなどからくる弊害によって、二次的な問題が生じ、患者が被っている不利益は大変大きなものとなっています。そのため、適切な治療と、生活への支援が不可欠です。この両者を十分に受けられないことは、患者ひとりひとりの人生そのものの損失といえます。
■努力や意思ではどうにもならない「眠気の発作」
患者自身、夜間に十分な睡眠をとったり生活のリズムを改善するなど、眠気に対してさまざまな努力を行っています。しかし、努力や意思では日中、突然襲ってくる強い眠気の発作を抑えることは不可能です。
そのため、上司が目の前にいる重要な会議中に眠り込んだり、入学試験の最中に眠り込んで失敗をしたりといったことがしばしば起こります。授業中、仕事中、談話中など、患者それぞれが持つ社会生活のさまざまな場面で発作が起こるのです。さらに未治療の場合、列車、船舶、バス、タクシー、乗用車などの運転中にも眠り込むことがあり、大事故につながった事例もあります。
発作による居眠りを患者自身が「病気である」と自覚していないことが多く、こと事故にいたる場合は、適切な治療機会の逸失が、社会的な損失につながっています。
■社会的な認知の乏しさと、無理解、偏見
ナルコレプシー、特発性過眠症および関連過眠症は、そもそもこれが重大な疾患であること自体について、社会的認知を受けていません。患者の多くは周囲の無理解や偏見に日々さらされ、たとえ薬物療法により症状の改善が見られても、依然として社会的に不利な状態に置かれていることが多いのです。
「たるんでいる」「なまけている」「やる気がない」「無責任」など、根拠のない偏見による叱責を受けたり、また主たる症状が「眠気」であることから、「そんなものが病気であるはずがない」「よく寝られていいじゃないの」などといった無理解に阻まれ、話すら聞いてもらえないという事態も、多くの患者が経験するところです。
また患者自身も、自分の状況を疾患によるものと考えず、セルフコントロールができないことを悲観したり、自己評価をひどく低くしてしまったりすることが多々あります。そのため、辞職を余儀なくされたり、学校に行けなくなり引きこもってしまったり、対人関係を避けるようになったりと、二次的な損失が生じています。また、疾患であるという自覚を持てないことが医療機関にかかりにくくさせ、長期間の放置につながっています。
■医師や行政の認知の低さ、無理解
一般だけでなく、医師や行政による認知の低さ、無理解は、さらに深刻な事態を引き起こしています。ナルコレプシー、特発性過眠症などの患者の多くは、専門医により診断されるまで、相当数の医師にかかりながら放置され、ひどい場合など医師から詐病と決め付けられたり、嘲笑されたという、いわれのない屈辱を受けています。
したがって、過眠症としての治療を受けられなかったり、疾患であるという認識を持つことができず、症状に苦しみ、社会生活に問題を抱えたままの潜在的患者が多数存在しています。彼らは、私たちがかつてそうであったように、自分に責任のない病気の苦しみを、自分のせいにして、さらに自身を苦しめる日々を送っているのです。
■ナルコレプシーの深刻な「情動脱力発作」
ナルコレプシーに特徴的な症状として、眠気の発作のほか「情動脱力発作」というものがあります。これは、たとえば友人と楽しく会話をしているときに笑ったり、面白い話をしようと得意な気持ちになったりしたときなど、突然、全身や頚、腰、下肢などの力が両側性に抜けてしまい、身体が沈み込んだり、ひどい場合には床に転んだりするものです。また野球や釣りなどの余暇活動のなかでも、うまく捕球をしたり、魚を釣り上げそうになったときに脱力発作が起こり、失敗してしまうということもあります。さらに仕事の上でも、ウェートレスが料理を盛った皿をもってお客に挨拶した途端に脱力が起こり、料理を落としてしまい解雇された例もあります。
このような情動脱力発作のため、患者は友人との楽しい会話を避けるようになったり、職を失ったりして、落ち込みがちとなります。またナルコレプシーでは、寝入りばなに恐怖感を伴う生々しい幻覚や金縛り体験がしばしば起こり、そのため夜眠ることに不安感を抱き、なかには木刀を傍らにおいて侵入してくる人影に対抗しようと、無駄と分かっている努力をしている例もあります。
■特発性過眠症の深刻な症状
一方、特発性過眠症はさらに深刻です。強い眠気が毎日長時間続きます。この病気の場合は、夜間に10時間近くの睡眠をとっても、日中に1時間以上の眠りが何回も起こります。ひどい場合には1日20時間を超える睡眠が何日も続き、通常の社会生活は不可能となり、患者が自分の人生をあきらめてしまうケースも少なくありません。
さらに、強い眠気と異常に長い睡眠時間に加え、頭痛や手足のしびれ、頑固な下痢など自律神経系症状が断続的に伴いがちで、生活の質を大きく下げています。
|