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心と社会 No.181 2020
巻頭言

いのちの電話のこれまでとこれから

堀井 茂男
一般社団法人日本いのちの電話連盟理事長
公益財団法人慈圭会慈圭病院理事長

いのちの電話といのちの電話のめざすもの

 いのちの電話の発祥は20世紀半ばの英国のサマリタンズ運動からで、比較的最近のことである。英国国教会牧師チャド・バラー(Chad Varah、1911〜2007)が、14歳の少女が初潮を性病(梅毒)と間違えて自殺した事件を憂えて、若者達に性の講義(「結婚講座」)をするようになり、また、この頃のロンドンでは一日3人の自殺者が出現するという日々もあり、1953年11月2日からロンドンの聖スティーヴン教会で電話相談を始めた。しかし、彼は多忙であり、近隣の婦人の方が役に立つということから、「失意の人の友となる人(ビフレンディング、befriending)」をコンセプトとして「サマリタンズ」が設立された。この活動が世界中に反響を引き起こし、ライフ・ライン(Life line、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ)、テレフォン・ゼールゾルゲ(ドイツ)、「信頼の電話」(ロシア)、Contact(アメリカ)など世界各地で電話相談の設立へと発展していった。

 日本のいのちの電話は、ドイツから更生施設「望みの門」に女性の自立援助で来日していた、ルツ・ヘットカンプ(Ruth Hetcamp)氏が呼びかけ、1970年夏、オーストラリアの「ライフライン」の創設者アラン・ウォーカー(Alan Walker)氏を招待して東京で講演会を開催、1971年1月いのちの電話(後に東京いのちの電話となる)事務局が開設され、1971年10月1日午前0時よりいのちの電話相談が開始された。初日の相談件数は252件、最初の1ヶ月で4,379件を数え、驚くべき相談数であった。相談内容は、医療、こころの問題が多く、1972年4月より土曜医療相談、面接相談も行うようになり、精神障害に稲村博医師、その他、医療相談、法律相談も行われた(現在はしていない)。

 その後、各地で相談センターの設立が続き、1977年8月に日本いのちの電話連盟(以後、FIND)が創設された。10年後の1987年に27センター、20年後の1997年には41センター、ボランティア数は約7,000人となり、日本の代表的な自殺予防、悩み相談電話として地道な活動を続けてきており、2018年の宮崎いのちの電話の開局、FIND参加により、2020年1月現在、全国50センターとなっている。相談件数はここ10年ほどは毎年約70万件、ボランティア7,000人であったが、2019年は63万件、ボランティア約6,300人で、ボランティア数の減少とともに、件数も減少傾向にある。

 いのちの電話相談は、主な目的として、「孤独の中にあって、助け、慰め、励ましを求めているひとりひとりに、よき隣人として、『電話』という手段で対話する」ことが掲げられ、@自殺(自死)に関連しての危機介入 A24時間体制 B匿名の尊重と秘密保持 C訓練を受け認定を受けた人が担当 D専門家(機関)との協力を基本的な活動目標とすることとした。

 これまでの代表的な活動としては、阪神・淡路大震災(1995年1月17日)では、神戸いのちの電話の相談員3名死亡などの被災にあったものの、2月13日には復旧、郵政省とNTTの協力で周辺6電話にフリーダイヤルを設置して電話相談を行った。

 東日本大震災(2011年3月11日、三陸沖でマグニチュード9.0)でも、3月末より震災ダイヤル(岩手・宮城・福島・茨城4県のフリーダイヤル)を設け、2013年9月末日まで相談活動を行った。また、福島原発放射能曝露被災では、震災ダイヤルに引き続き、福島県域あるいは同県出身者にターゲットを絞り、フリーダイヤル電話相談を施行してきている。

 2016年4月の熊本地震においても、九州その他の7センターの協力を得て、アメリカのチャイルドファンドの資金協力、2017年7月よりFINDが引き継いでフリーダイヤル電話相談活動を行った。

 2019年11月の中国武漢市に端を発する新型コロナウイルス(Covid-19)感染症は中国から全世界に拡大しているが、わが国でも1月16日の最初の感染確認を皮切りに全国に拡がり、緊急事態宣言が4月7日7都府県に、4月16日に全国に拡大していった。その後、5月25日、緊急事態全面解除、6月19日都道府県間の移動の自粛などを全国で緩和する宣言を行い正常化に向かうこととなっていたが、7月中旬より再び増加傾向となり、第2波の到来と云うことでさらに警戒が続いている。この、コロナ禍の自粛生活により生活のあり方が大きく変化し、3密(密閉、密集、密接)忌避の推奨から、移動の制限、テレワークの増大など交友関係の機会の減少、フラストレーションの捌け口の少なさから起こるいろいろな問題、人間本来の社会活動の制限からの国民の不安の増強が懸念され、私たちFIND理事会でも対策の検討を重ねた。その結果、毎日のフリーダイヤル相談(毎日FD)を設定してはということとなり、厚労省にも相談した結果、6月20日より「毎日FD」を実施することとした。

いのちの電話の今後の活動

 全国のいのちの電話活動では、眠らぬダイヤルの24時間対応を現在50センターの約半数が行っており、2001年から「フリーダイヤル自殺予防いのちの電話」(以下、FD)を開始し、2007年9月10日より、この日を自殺予防デーとし、この1週間を自殺予防週間、FD相談日を毎月10日(朝8時〜翌日8時)として電話相談(0120-783-556)を受けることとなり、以後継続している。また、よりかかり易くするために検討を重ね、2013年からナビダイヤル(1電話が話中だと次のセンターに繋ぐ、15センター参加)を開始しているものの、かかりにくさの問題は続いていた。FINDが一般社団法人となり、新しい理事会ではいくつかの改善を試みて来ており、FDのモニタリング検討も行った。かかりやすいFDを目指しての検討では、頻回通話者、問題電話は番号非通知電話に多い可能性の指摘もされ、FDフリーダイヤルで番号通知、非通知が各約半数であったことから、通知電話での相談のみを受けることを2016年6月から試みることとなった。その結果、通話までにかける回数が約18回に1回であったものが約6回に1回繋がり、予想以上にかかりやすい電話となった。また、頻回通話者、長時間通話者の上位が大きな弊害となっている可能性があり、2017年7月より、フリーダイヤル相談24時間に20回以上かけてきている人、2時間以上相談している掛け手に次回の1回を遠慮していただく試みをしたところ、約2回に1回はかかるようになった。結果の推移を検討して、今後もつながりにくさの改善に努力していきたいと考えている。

 相談者(利用者)は、設立当初は20代、30代の人たちが各2、3割占めていたが、最近は両者で2割程度になってきており、相談手段が時代とともに変遷して来ており、2006年より東京いのちの電話などでインターネット相談(IT相談)を開始した。IT相談は、2016年より、FINDで継続しており、その利用者も増加傾向にある。また、自殺(自死)者が減少してきているとは云え、若者が減少していないことから、厚労省もSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス、Facebook・LINE・Twitterなど)相談を計画し、2018年3月より、私たちFINDも参加している。計画は現在なお進行中であり、詳細は今後の情報を参照していただきたい。その他、自死遺族支援事業や全国での自殺予防シンポジウム、講演会などが各センターで計画されている。

 先述した、新型コロナウィルス感染症禍のいのちの電話活動は、各センターがたいへんな状況にあるにも拘らず、困難な状況で困っている人のためになんとか相談に乗りたいと、毎月10日のフリーダイヤルに加えて、厚労省の援助を受けて行うことになったものである。6月20日開始から、毎日午後4時〜9時の間、全国で協力できるセンターがFD相談を受けており、7月20日までで1,242件、平均約25分、「コロナが心配」「怖い」「どうしていいかわからない」「生活に困っている」「死ぬしかない」などの相談を受けている。自殺(自死)関連相談も約30%と多く、7月は全国の26センターが協力してくれている。当初8月31日までの計画であったが、FIND理事会(web会議)で審議し、厚労省の協力も得られること、全国の相談状況から2021年3月まで継続することとなった。この「毎日FD」にさらに参画して下さるセンターもあり、協力をして下さる全国のボランティアに改めて感謝する次第である。

 全国のいのちの電話のボランティアは、自分の時間を匿名で、名誉も求めず、孤独な人たち、寂しい人々、悩んでいる皆様の話し相手、何か役に立ちたい、と全て持ち出しの地味な活動をして下さっている。報酬のないボランティア活動を担っている人たちは貴重な存在であり、それを支える家族の皆様、資金ボランティア、研修指導者や、その他多くの関係者が全国にたくさんおられて相談活動は成り立っている。“自殺予防はみんなの仕事(Suicide prevention is everybody\u000002bcs business)”という言葉があるように、読者諸兄を含め、いのちの電話活動に参加、協力、協賛をお願いしたいと切に願っている。

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