聖路加国際病院理事長 日野原 重明 5.健康の新しい定義 以上述べたことは、私たちのからだにはいろいろの調節機構や防禦機構があって、健康が保持されるという説明です。
有名な生物学者のルネ・デュボス(1901〜1982)は、『人間と適応』の中で次のように述べています。 「健康な状態とか、病気の状態というものは、環境からの挑戦に適応しようと対処する努力に、生物が成功したか失敗したかの表現である。 以上のことを私たちの日常生活、社会生活に適用して考えると、健康とは、生体内外の極めてよい条件の中で、たとえば、箱入り人形の如く、内外からのストレスがなく、至適な環境の中で生体が正常に働くのが理想的な健康だと言うだけでなく、不利な条件、不規則な条件の中でも、よくその変化に順応できる、つまりうまくその条件に対応できる能力こそが、本当の健康であると私は定義したいのです。 私のこの考えは、デュボスの発想を受けてのことですが、身体的、精神的、社会的条件のいずれに対しても、その人間のからだと心が上手に適応できれば、その人は、たとえ何らかの病理的変化や欠損があっても、心は健やかであり、また困難の状況の中をうまくセルフ・コントロールしたという達成感が一種のエネルギー(spirit、魂、気)を生じて、その人間自身に精気を与え、生き甲斐をも与えることになるのであります。 1.老人の心の健康 |
|||||||