中部学院大学大学院教授 吉川武彦 国家公務員自殺 01年から5年間の傾向から見えてきたもの自殺者の概要から見ると別な面が見えてくる。表2は01(平成13)年から05(平成17)年までの国家公務員一般職(常勤)の自殺者619人の男女別年齢階級(5歳)別区分である。これで見るように国家公務員の自殺は国民一般と比べると人口10万あたりの自殺率は低い(註:国民一般ではほぼ23、国家公務員では17)。ただ、気をつけなければならないことは39歳以下の自殺は自殺者619人のうちの263人で約43%である(表2)のに対して、一般人口では約23%(註:国民衛生の動向から算出)でありほぼ2倍となっている。 一般人口では40歳以上の自殺が極めて高くこれがしばしば問題となるが、国家公務員ではその様相が全く異なっているということであろう。なかでも男性の自殺では29歳以下の自殺率が他の年齢区分の自殺率よりも高いことは、特異的であると言っていい。そもそも国家公務員の自殺は一般人口が示す傾向のやや先を行くと考えられるので、40歳以上に自殺が多いという一般人口とは異なっているこの傾向は、今後のわが国の自殺が辿る傾向を予測させるものではないかと危惧するところである。 なお、男女比から見ると圧倒的に男性が多いが、これは職員の男女比を考慮に入れても男性が高いことが明らかである。またその比率は明示できないが、一般人口における自殺者の男女比よりも国家公務員男性の自殺は女性よりも高いと推定される。ちなみに国家公務員の男性の自殺率は20.1であるのに対して女性は5.7であり、男女ともに一般人口よりも低いが、一般人口との開きは女性の自殺率の方が大きい。 自殺者の自殺したときの職階がどのようであったかを見ると、課長級以上のものが16%、課長補佐級以上で見ると31%で、係長以下のものが69%である。職階別の人数が不明なのではっきりとは言えないが、先に年齢別から見た傾向として39歳以下のものに自殺が多く見られることを指摘したが、この結果はほぼそれを証明するものといえよう。しかしながらそれとともに、課長補佐級以上のものと係長級以下のものとの人口の割合から考えると課長補佐級以上のものに自殺者が多いと見ることもでき、役職に関わる責任の大きさが自殺に影響を及ぼしていることが推定できる。なお、国家公務員T種のものにも実数で24人いる。これまた採用種別の人数が不明なので確たることは言えないが、T種採用がそれほど多くないことを考えるとこれがかなりの数であると言えるだろう。 表3は、自殺者の平常の健康状態別に見た年度別変動である(表3)。年度別の実数の変化は急激に国家公務員が減少したために見られる年度変化と考えていいものであるが、重複集計なので総計における年度別変化はここでは解析ができない。しかし、平常の健康状態から見た括りで比較すると、うつ病・うつ状態は01(平成13)年度で25%のものが02(平成14)年度で34%に跳ね上がり、03(平成15)年度は24%と低くなったが04(平成16)年度は36%と再び反転し、05(平成17)年度は28%で、自殺者のなかのうつ病・うつ状態が占める割合は明らかに高止まりになっている。ここでいううつ病・うつ状態は反応性うつ病あるいは反応性うつ状態を含むと考えられるので、これをもって自殺者には疾病としてのうつ病が増えているとは言えないが、自殺者のなかの割合として広い意味でのうつ状態にあるものが自殺していることは確かである。 国家公務員の自殺に関しては動機や抱えている問題別に集計もされている。カテゴリーは、(1)家庭的な問題を抱えていたと推定されるもの、(2)個人的な事情を抱えていたと推定されるもの、(3)仕事の量や質あるいは仕事上の人間関係に問題を抱えていたと推定されるもので、重複回答を求めた結果だが(1)は18%、(2)は49%、(3)は25%で約半数が個人的な問題を抱えて自殺したと推定された。特に理由が見あたらなかったり、なにが理由で自殺遂行したかがわからないものがほぼ40%であった。 ところで誰が本人の悩みや異常に気づいたかという面から見ると(重複回答)、誰も気づかなかったが70%、家族が21%、職場が20%だが、気づいたものの面から見ると家族が68%なのはそれなりに納得できるが、上司が52%であり同僚が41%であることは意外ですらあった。しかしながら本人が悩みごとを相談していたとされるのは35%に過ぎず相談をしていなかったは29%であり、相談の充実が求められていると考えられる結果であった。さらに驚くべきことは自殺既遂者の56%は上司を相談相手として選んでおり、家族(48%)や医師(46%)を軽く凌駕していることである。この結果から見ても相談相手が適切な相談の受け方をしていれば自殺防止につながることが推察された。 はじめに |
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