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こころの健康シリーズZ 21世紀のメンタルへルス

No.4 スウェーデンでの子育て体験

大谷地病院 精神科 岸川淳子


3.ストックホルムに到着して

 スウェーデンでは自転車用の道路が整備されていて安心して歩道を歩くことができます。 数段の階段でも必ず横にベビーカーが通行できるようにスロープや板が渡してありました(写真1、2)。冬の雪道は日本のベビーカーでは全く対応できず、まだ歩行出来ない幼児用のもの(日本のA型にあたるもの)はがっちりと大型で重く、車輪が直径20センチはあるのではないか?といった立派なものです。

スロープ 階段
写真1:スロープ 写真2:階段

 小回りに欠けるのですが多少の段差は乗り越えられるので慣れれば快適です。バスに乗る時には地面から段差があるので押し上げる必要がありますが、周囲の人は必ず手伝ってくださり、また乗り込めばベビーカーが並べられるスペース(写真3)があるためそこにそのままベビーカーを並べて置くことが出来ました。その状況にバリアフリーの意味を実感したものです。ベビーカーを押してバスに乗る場合、子供はもちろん親もバスを無料で利用出来たのはありがたいことでした。スウェーデンの人口密度が東京よりも低いから実現出来ることだとは思いますが、“日本ではベビーカーをたたまないと迷惑だと言われることがある。ベビーカーをたたむか、どうするか?といった議論が日本にある”と説明すると驚かれたものです。

4.プレスクール(Forskola)での生活

スウェーデンに一年以上滞在する予定であればパーソナルナンバーが取得でき、住民の基本的なサービスが受けられるようになります。スウェーデンは共働きが普通なので1歳から子供をプレスクール(Forskola)に入れることが可能です。移民が多いためインターナショナルのプレスクールが多くあり、基本的には希望者は全員公立や私立のプレスクールに入学可能です。金額は親の収入に応じてかわりますがパーソナルナンバーがあれば2017年現在スウェーデンでは、第1子は最高1362Kr(2017年1月現在1Kr約13.8円)第2子908Kr、第3子454Kr、4子以降無料です。プレスクールは日本で言う幼稚園と保育園を合わせたような所で、無職や学生であっても週30時間まで利用可能、フルタイムであればそれ以上の利用が可能となっていました。教育では、子供にはのびのびと興味のあることをさせることがモットーで勉強に関してはかなりゆったりとした印象です。外歩きは毎日で小遠足のようなものにもかなりの頻度で出掛けて、夏は雨(ストックホルムでは通り雨のようなものが度々ある)に対応したコートを羽織って森に出かけて過ごし、季節にはブルーベリー摘みやキノコ狩りなどを楽しみます。近隣の博物館や美術館、動物園などに定期的に出かけるなど、屋外での学習を大切にしています。校庭や近場で遊ぶ時には集団で同じ一つのことをするのでなく各自がやりたいことを好きなようにしており、ブランコに乗りたい子供がいれば、“後ろの子がいる時は、ちゃんと順番に交代しなさい”といった感覚がなく、その子が飽きるまでブランコを楽しませることには当初驚きました。冬に雪が降っても外遊びを楽しみます。幼児をベビーカーにのせたまま雪の中でも外に出すのには驚きましたが、寒い外気に慣れさせると呼吸器の機能が強くなるという考えがあるようです。毎日スナックタイムがあり公園で果物やサンドイッチを食べるなど、スナックも栄養補給の一環と考えられています。食事はベジタリアンや宗教上の違いは問題なく許容していましたし、昼食はバイキング形式となっており好きなものを好きなだけ取るスタイルで、好き嫌いをせずに出されたものは残さず頂くといった感覚はありませんでした。子供の習い事は自治体がプログラムを組んで格安で提供してくれますが、日本のように就学前から習い事や勉強をはじめることはあまりありません。子供に無理なストレスをかけてはいけない、といった基本的な考えのためです。小学校に入学した後でも週末に宿題が出ることはありません。週末にゆったりと家族で過ごす時間を尊重しているためです。スウェーデンは移民が多く、プレスクールでも小学校でもヨーロッパ人、アメリカ人、アジア人、アフリカ人と多種多様な人種が混じって学習していました。研究者用の寮の近くには、公立の小学校にインターナショナルのコース(英語)が設置されていました。興味深いのは、母国語をしゃべる権利を尊重するといった考え方で、母国語の補習システムが希望者には用意されていました。外国人に対しての差別対策や、多様性を受け入れるための教育がなされていましたが、現実には理想通りにいかず移民が増えて共存が難しい面があるようです。人権に関わる問題に対しては、学校側は非常に真剣に対応していました。

バスのベビーカースペース プレスクールの玄関
写真3:バスのベビーカースペース 写真4:プレスクールの玄関

5.スウェーデン社会に触れて/6.終わりに

1.はじめに/2.日本での妊娠、出産、育児
3.ストックホルムに到着して/4.プレスクール(Forskola)での生活
5.スウェーデン社会に触れて/6.終わりに

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