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こころの健康シリーズ[ 国際化の進展とメンタルヘルス

No.4 多文化共生社会の出産と子育て

明治学院大学心理学部 西園マーハ文

はじめに

 人が新しい土地で生活を始める時、その社会になじんでいくのにはさまざまな段階があるが、子育ては、これを強力に推し進める場合も多い。出産前後に医療関係者に頻繁に会ったり、子どもが大きくなれば子ども同士が作るネットワークに親も参加していくからである。しかし、一方で、日本人にも多い産後のストレスは、外国人にはさらに重くのしかかる場合も少なくない。

 私は、平成12年から、東京の都心の区の保健センターで、産後メンタルヘルスの援助事業を担当している。児童虐待に関する報道の度に話題になるが、産後、精神的に不調な方が、自分から助けを求めるとは限らない。このため、この事業では、乳児健診の際、全員に質問紙を配布し、援助が必要と思われる方に保健師が声をかけ、月に一度の「親と子の相談室」での精神科医または臨床心理士(公認心理師)の面接をお勧めするというシステムを持っている1)。この事業から見えてくる多文化共生社会の出産や子育ての課題について考えてみたい。

産後メンタルヘルス事業と外国人女性の出産

 この区では、人口の1割が外国籍であり、外国人の出産も多い。産科病院の大部屋が外国人ばかりになることもあるという。産科入院中の外国人妊産婦が不眠だったり、明らかに表情が暗いような場合、病院から地区担当保健師に連絡が来ることもある。言葉の壁があれば、通訳者が本人と保健師の対話をその場で通訳できるのが理想であるが、それが難しいことも多く、タブレット通訳なども活用されている2)。しかし産科の入院期間は短く、早期の援助には繋がらない場合もある。その後、保健センターが状況を把握できるのは、新生児訪問、乳児健診などの場である。この区では、乳児健診(3〜4か月健診)で、全員に産後うつ病質問票を配布している。日本人も含めた産後3〜4か月の女性の約1割がこの質問票の高得点者となる。質問紙が高得点でもうつ病という診断の確定には面接が必要である。また、パニック障害や過食症など他の疾患が併存することもある。そこで、精神症状の評価と援助方法の検討のため、私(精神科医)と臨床心理士2名とで分担して面接を行っている。使用する質問紙は、英国で作成されたエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)の日本語版である。作成者Coxの著書3)の巻末には、この質問票のさまざまな言語版が掲載され、英国にはさまざまな言語使用者がいることがうかがわれる。私たちの事業でも、英語、中国語、韓国語、タガログ語、タイ語などの版が活用されているが、最近はミャンマー、ネパールなどアジア系住民が増えており、さらなる翻訳が必要となっている。

 質問紙で高得点でも、面談を希望しないケースは日本人でも当然ある。理由はさまざまで、自分では問題があると思っていない場合、問題があるとわかっていても通院を考えると億劫という場合など、人によって事情は異なる。外国人で日本語が不自由な場合、各国語版質問紙で高得点というところまではわかっても、面接の必要性の説明や、実際の面接は難しいことも多い。夫、友人などが通訳できる場合もあるが、当然ながらこのような状況では、本人の本音を聞けない場合もある。

 これらを背景に、この区で援助したある事例を紹介し、外国人の女性の産後の状況について考えてみたい。(個人情報保護のため、詳細は変更してある。)

 

アジア人の女性の出産と子育ての例/外国人の母親のメンタルヘルス問題の背景

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多文化共生社会の子育てのさまざまな側面

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