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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

No.1 生活困窮者支援とメンタルヘルス
―NPO法人ほっとプラスへの相談事例から考察する―

NPO法人ほっとプラス代表理事  藤田孝典


20歳代の男性の事例から〜仕事先を転々としてしまう若者〜

 また、別の20歳代の男性も同じように「社員寮を出されて家がなく困っている」と相談 に来られた。話をうかがうと様々な仕事をこれまで経験してきているが、6ヶ月以上同じ場所で働いた経験を持っていない。「ちゃんと住居が出来たら仕事をしたい」と意気込んでいたため、一時的に生活保護申請を行い、住居を提供しながら、関わりをはじめることとした。すると男性は就職活動も熱心で、相談に来られたときから1ヶ月も経たないうちに、パチンコ店の雇用を見つけ、アルバイト店員として働き始める。仕事も熱心であったと店長も話していた。しかし、そんな矢先、初めての給与が支給された翌日に男性は仕事を無断欠勤し、行方不明になってしまう。店長や近隣住民など誰に聞いても居場所を知らないという。何か事件に巻き込まれてしまったのかと不安に思っていた1週間後、事務所にひょっこりと男性が現れる。どうしていたのか事情を聞いてみると「仕事していてストレスがたまり、初めて給料が出たときに嬉しくて、スロットにお金を使いすぎてしまいました。家賃も払えなくなってしまい、恥ずかしくて誰にも相談できずにいました」と語った。過去にも同じようなことがあったのか聞いてみると、ギャンブルの種類に違いはあるが、毎回給料を受け取るとすぐにお金を使い果たしてしまい、生活ができなくなってしまっているようだった。仕事熱心にも関わらず、短期間のうちに職場を転々としてしまう理由には、おそらくギャンブル依存症が背景にあるのではないか、あるいは金銭管理がひとりでは困難な状態にあるのではないかと推測できる。現在、その男性はギャンブル依存症の自助グループに通所する支援を継続し、生活保護制度を利用しながら生活している。就労支援は行っていない。就労をしてもギャンブル依存症や生活課題が解消されなければ、就労継続は困難であるためだ。

50歳代の男性の事例から〜刑務所を出所してきた人に対する支援〜

 別の50歳代の男性は、「昨日、刑務所から出てきて誰も頼るところがなくて困っています。助けてほしいです。」と相談に来られた。最近は、刑務所や保護観察所からの依頼もあり、刑事施設を満期出所した後に生活支援を行う事例も増えている。男性はその一人である。男性は約10年前に居酒屋で飲酒時に隣り合わせた客と口論になり、殺傷事件を起こしてしまった。男性は元来、カッとなりやすい性格だそうで、感情を抑えきれないことがあるという。他の相談者同様に、生活保護申請を行い、住居提供をして生活支援を始めることとした。あるとき、男性が「体調が悪い」と言うので一緒に病院で待ち合わせをすることにしたのだが、いつまで経っても待ち合わせ場所に来ない。不安に思って連絡してみると、約束したことを忘れてしまっていた。そんなことが何度か続き、男性も不安に思ったらしく、一緒に精神科を受診してみることになった。精神科での様々な検査の結果、精神発達遅滞ではないかと医師から話がなされた。要するに軽度の知的障害がある。そして、日常生活で困難な部分があることや情報を整理することが困難で、ストレスを感じると暴れてしまうことで怒りや不安を表現するのかもしれないという見解だった。そのため、医師や行政職員と療育手帳を取得するための手続きを開始し、中程度の知的障害があると認定を受けることができた。現在は、知的障害者施設の通所施設(福祉作業所)で軽度な就労を続けている。もしかしたら、約10年前の殺傷事件も知的障害による不穏状態が行わせたものだったのではないかと推測をしてみるが、すでに検証の機会は与えられていない。このように療育手帳を取得することなく、生活のしづらさや困難を抱えながら、生活困窮に至って相談に来られる人も後を絶たない。

3.30歳代の女性の事例から〜薬物依存症に対応する社会資源の不足〜/生活困窮者に関わるソーシャルワーカーの持つべき視座

1.NPO法人ほっとプラスの相談支援現場/相談者に見られるメンタルヘルスの課題
2.20歳代の男性の事例から〜仕事先を転々としてしまう若者〜/50歳代の男性の事例から〜刑務所を出所してきた人に対する支援〜
3.30歳代の女性の事例から〜薬物依存症に対応する社会資源の不足〜/生活困窮者に関わるソーシャルワーカーの持つべき視座
4.『戦後の浮浪者の精神医学的研究』から/まとめ

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