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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

12 『ホームレス』問題はハウジングファーストから
―路上は最悪の場所ではない―

認定NPO法人世界の医療団理事/精神科医
森川すいめい

 

3.路上生活は苦しい

 2008年に私たちが行った調査では、路上生活に至った人の中で3か月未満の人は、そうではない人と比べて自殺リスクが高い(M.I.N.I.精神疾患簡易構造化面接法)との結果でした。「3か月目までは、孤独で、絶望していて、生きている理由がわからなくて、死ぬしかないのだと思っていました。そう思ってベンチに座っていたら、野宿している他の人が、少しずつ遠巻きに寄ってきて声をかけてくれたんです。ごはんをもらいました」。男性はその後、ひととのつながりを感じて生きていると思えたのだそうです。しばらく路上生活が続きましたが、支援団体の支援によって路上から脱し仕事をしながらアパート生活をしています。しかし、この調査とケースからわかることは、路上生活になりたての人ほど苦しい思いをし、そして命を絶っている可能性があるということです。実際に、自殺を決めた人とも数名会ったことがありました。全員を助けることはできませんでした。

4.お金がないことは機会の不平等となる

  お金がないことは、すなわち機会の不平等となります。お金を持つほど教育を受けられ、ネットワークを持ち、様々な機会がたくさんあります。もちろん、お金のありなしでキッパリとこうだと分けて論ずることは乱暴ですが、貧困者の援助をしていると、金があればなんとでもなる苦しさというのもたくさん経験します。金がすべてではないけれども、金がないことで機会が激減するのは確かです。Tさんは北の寒い地域の出身でした。中学校の教育も十分受けることなく、仕事を転々とし、その後15年近く野宿をしていました。野宿をしているときのTさんは、しかし、とても明るく優しかったです。ただ、いざ何か行うといったときは、いつもどこかに逃げてしまうことを繰り返していたため、生活保護を利用しても長続きしませんでした。そんなTさんが15年ぶりに路上生活から脱しました。アパート生活を開始し、今も安定して生活しています。最初の頃は、時々路上に寝ていました。Tさんは療育手帳を取得しました。しばらくして、Tさんは支援者と一緒に故郷に行ってご兄弟に会いました。果たして、どのような再会になるのか、支援者たちにとっても少し怖くもありましたが、出てきたご兄弟は、「この人のおかげで私は学校に行けたの」と感謝をしていることを何度も話していました。Tさんは身を粉にして働き、そのお金をご兄弟のために使っていたのです。このようなケースもときどきあります。

 

5.路上生活はホームレス状態の人の一部にすぎない

1.路上生活の場所以外に自由はない/2.路上生活に至った背景の多くは孤立
3.路上生活は苦しい/4.お金がないことは機会の不平等となる
5.路上生活はホームレス状態の人の一部にすぎない
6.今求められるのは「ハウジングファースト」/まとめ

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