ご挨拶日本精神衛生会とはご入会のご案内資料室本会の主な刊行物リンク集行事予定

こころの健康シリーズZ 21世紀のメンタルへルス

No.8 インターネット依存に関係したコミュニケーション問題

三原聡子 北湯口孝 橋本琢麿 前園真毅 上野文彦 中山秀紀 樋口 進
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター


はじめに

 わが国におけるインターネット(以下、ネットとする)の急速な普及はめざましく、総務省発表の平成28年通信利用動向調査(総務省・2017)によると、平成28年の1年間に最低1回、ネットを利用したことのある6歳以上の国民の割合は人口の約83.5%にのぼるとのことです。また、世帯ごとの情報通信機器の保有状況を機器別にみると、近年ではスマートフォンの伸び率が高く、世帯のスマートフォンの保有状況は2010年には9.7%であったものが、2016年時点では71.8%にも及んでいます。かつてはすえ置き型のパソコンでしか利用できなかったネットが、いつでもどこでも手軽に使用できる、身近なものになってきていることが伺われます。

 このようにネットが身近なものになる中で、その使用時間も、年々、上昇傾向にあることが報告されています。総務省情報通信政策研究所が発表した「平成28年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によると(総務省・2017)、ネットの平均使用時間は、平成24年度では71.6分(平日)であったものが、平成28年度には平日で99.8分、休日では120.7分と、年々増加傾向にあることが示されています。

 さらに、低年齢からのネット使用も増えている傾向が見受けられます。内閣府の「低年齢層の子供のインターネット利用環境実態調査」によると(内閣府・2017)、0才児の3.1%、1歳児の9.1%、3歳児の28.2%がネットを使用した経験があることが報告されています。

 このように、昨今のわが国におけるネットの使用状況としては、スマートフォンの急速な普及による身近な利用、長時間化、低年齢から使用開始の傾向が見受けられます。


ネット依存の実態

 このような急速なネットの普及により、ネット依存はわが国においてすでに深刻な問題になっています。

 わが国における青少年のネット依存の実態に関しては、 Mihara et a(l.2016)が、全国の中高生約10万人を対象とした調査を行っています。この調査では、ネット依存状態を評価する尺度として、アメリカにおけるネット依存の先駆的な研究者の一人であるYoung(1998) により作成された、Diagnostic Questionnaire for Internet Addiction (DQ) を使用しました。この結果、ネット依存が強く疑われる者が51万8千人にのぼるという推計を行っています。

表1. Diagnostic Questionnaireの邦訳版
  1. あなたはインターネットに夢中になっていると感じていますか?(たとえば、前回にネットでしたことを考えたり、次回ネットをすることを待ち望んでいたり、など)
  2. あなたは、満足をえるために、ネットを使う時間をだんだん長くしていかねばならないと感じていますか?
  3. あなたは、ネット使用を制限したり、時間を減らしたり、完全にやめようとしたが、うまくいかなかったことがたびたびありましたか?
  4. ネットの使用時間を短くしたり、完全にやめようとした時、落ち着かなかったり、不機嫌や落ち込み、またはイライラなどを感じますか?
  5. あなたは、使い初めに意図したよりも長い時間オンラインの状態でいますか?
  6. あなたは、ネットのために大切な人間関係、学校のことや、部活のことを台無しにしたり、あやうくするようなことがありましたか?
  7. あなたは、ネットへの熱中のしすぎをかくすために、家族、学校の先生やその他の人たちにうそをついたことがありますか?
  8. あなたは、問題から逃げるために、または、絶望的な気持ち、罪悪感、不安、落ち込みなどといったいやな気持から逃げるために、ネットを使いますか?
評価方法:5項目以上該当すれば「インターネット依存の疑い」とする。

 わが国ばかりでなく、ネット依存は各国で深刻な問題となりつつあります。各国の有病率は調査方法や地域によって差がみられますが、0.7%から特に高い地域では27.5%にのぼ っています(Mihara & Higuchi, 2017)。

 このような世界的なネット依存問題の高まりに応じ、今年ICD-11の改定に伴い、ゲーム嗜癖に焦点を当てた診断基準が作成されつつあります。今後、ネット依存は行動嗜癖の一つとして、積極的に介入・治療されるべき問題となることが予測されます。

ネット依存の治療の実態

はじめに/ネット依存の実態
ネット依存の治療の実態
コミュニケーション問題と合宿治療プログラム
コミュニケーション問題に焦点をあてたネット依存の予防と対応

ご挨拶 | 日本精神衛生会とは | ご入会の案内 | 資料室 | 本会の主な刊行物 | リンク集 | 行事予定