ご挨拶日本精神衛生会とはご入会のご案内資料室本会の主な刊行物リンク集行事予定

こころの健康シリーズZ 21世紀のメンタルへルス

No.8 インターネット依存に関係したコミュニケーション問題

三原聡子 北湯口孝 橋本琢麿 前園真毅 上野文彦 中山秀紀 樋口 進
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター


コミュニケーション問題に焦点をあてたネット依存の予防と対応

 キャンプに参加した子どもたちの変化をみると、ネット依存は、様々なことをきかっけとして、自信と周囲の人々への信頼を失い、誰かに相談することもせずに現実の問題から逃避している状態であるともいえるのではないでしょうか。そこからの回復の第一歩となるのは、現実の誰かと信頼関係を築くことで、それまで避けてきた現実の問題と向き合えるようになることのようです。このため、ネット依存の最大の予防法は、何かあった時に人に相談できるようなコミュニケーション力を持っておくことであるのかもしれません。

 さらに、先に述べましたように、近年、ネットの使用開始年齢の低年齢化も見られ、コミュニケ―ションを身につける段階の年齢の子どもたちがすでに、他人とのコミュニケーションと密接に関連するネットを利用し始めていることになります。ネット上だから、匿名性が保たれているから、顔が見えないから許されるといったコミュニケーションを身につけてしまうことで、現実のコミュニケーションが適切にできないまま成長してしまう子供が増加してしまうことも考えられます。現実とネット上との区別なく、同じ他人とのコミュニケーションとして、相手を思いやるマナーを含めたネット依存予防教育が必要になってくると思われます。具体的には、ネットの使用時間帯や、使用してよい場所や状況の教育、といったことが考えられます。

 今後もIT技術の発展に伴い、その負の側面であるネット依存関連問題はさらに大きくなっていくものと予想されます。ネットの世界が、「現実のコミュニケーションに躓いてしまった子どもたちの逃げ場所」ではなく、現実のコミュニケーションを充実したものにしてくれ、現実生活をより良いものにしてくれるツールとなっていってくれることを願うばかりです。

参考文献
1) Ha JH et al. Psychiatric comorbidity assessed in Korean children and adolescents who screen positive for Internet addiction. Journal of Clinical Psychiatry 67 : 821-826, 2006.
2) Koo C et al. Internet-addicted kids and Soth Korean government efforts: boot-camp case. Cyberpsycholgy and Behavior Social Networking 14 : 391-394, 2011.
3) Mihara S, Osaki Y, Nakayama H, Sakuma H, Ikeda M, Itani O, Kaneita Y, Kanda H, Ohida T, Higuchi S. Internet use and problematic use among adolescents in Japan: a nationwide representative survey. Addictive Behaviors Reports 4, 58-64, 2016.
4) Mihara, S., & Higuchi, S. Cross-sectional and longitudinal epidemiological studies of internet gaming disorder: A systematic review of the literature. Psychiatry and Clinical Neurosciences, 71(7), 425-444, 2017.
5) 内閣府(2017). 低年齢層の子どものインターネット利用環境実態調査 〈http://www8.cao.go.jp/youth/youth-harm/chousa/h28/net-jittai_child/pdf/gaiyo.pdf〉(2018年1月20日)
6) Sakuma H, Mihara S, Nakayama H, Miura K, Kitayuguchi T, Maezono M, Hashimoto T, Higuchi S: Treatment with the Self-Discovery Camp (SDiC) improves internet gaming disorder. Addictive Behaviors, 64 : 357-362, 2016.
7) 総務省情報通信政策研究所(2017).「平成28年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」 Retrieved from http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01iicp01_02000064.html(2018年1月20日)
8) 総務省(2017). 平成28年通信利用動向調査 Retrieved from http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/170608_1.pdf(2018年1月20日)
9) Winkler A, Dorsing B, Rief W, et al : Treatment of internet addiction: A meta-analysis. Clinical Psychology Review, 33(2) : 317-329 : 2013.
10) Young K, S. Internet addiction: the emergence of a new clinical disorder. CyberPsychology & Behavior 1 : 237-244, 1998.

はじめに/ネット依存の実態
ネット依存の治療の実態
コミュニケーション問題と合宿治療プログラム
コミュニケーション問題に焦点をあてたネット依存の予防と対応

ご挨拶 | 日本精神衛生会とは | ご入会の案内 | 資料室 | 本会の主な刊行物 | リンク集 | 行事予定