精神疾患の発病を遅らせることができれば、患者さんの人生が変わる
アジア初開催となった本学会に、世界中から多くの方が参加し、盛況のうちに終えることができました。元々、統合失調症という病気の早期発見、早期治療を目的としていた学会ですが、今回のテーマは「To the New Horizon」。統合失調症だけでなく、精神疾患全般についても早期発見することを念頭に掲げていました。対象とする疾患の裾野が広がったことは、今回の大きな成果の一つです。また、そうした意識をアジアとしても共有することができました。アジア諸国においても、精神疾患に罹患してから専門家の支援を求めるまでにとても時間がかかり、回復を遅らせていることは共通の大きな課題となっています。
精神疾患を発病する徴候として、眠れない、食欲がない、だるい、不安になるといった共通の症状があります。今回発表された研究の中に、精神疾患になる危険性の高い「ウルトラハイリスク」とされる集団に対し、薬物療法ではなく、認知行動療法や環境調整といった治療を早期に行うことで、発病する人の割合が下がったという報告がありました。つまり、精神疾患に対して早期に治療を行うことで、発病を防いだり、先延ばしにすることが可能だとわかったのです。
発病を先延ばしにすることは患者さんのその後の人生にとって非常に大きな意味をもちます。例えば、高校生で統合失調症を発病し、30歳でようやく病気がよくなっても、それから就職先を見つけるのは容易ではありません。一度でも社会で働いたことのある人とそうでない人では、社会に復帰する難しさが異なります。できるだけ発病を遅らせることは極めて重要なことなのです。
長期の予後を見据えて早期介入をする。そのために、学校の養護教諭の先生や、地域の保健師さんに精神疾患に対する正しい知識をもってもらい、早期発見につなげていったり、あるいは行政とも方向性を共有し、早期発見に向けた取り組みを地域や社会の中に根付かせていくことが必要です。
今回併催した日本精神保健・予防学会と公益財団法人日本精神衛生会の市民公開講座では尾木直樹先生が講演をされました。精神疾患においては、普段から心の健康について積極的に取り組んだり、ストレスの少ない環境づくりを行ったり、予防的観点も欠かすことはできません。医療と精神保健の双方が連携した取り組みを今後も進めていく必要があると考えています。 |