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心と社会 No.100 31巻2号
100号記念座談会
−日本の精神保健 過去・現在・未来−

 


7.精神障害者への偏見


【小峯】そのことは、精神障害者に対する日本人の偏見の問題ともつながっているのでしょうか。

【加藤(正)】私はやはり日本的な前近代性というものは「家」という考えに特殊性があるんだと思いますね。一家に精神病の患者さんが出たりしたら大変でしょう。そこの家の人は皆から隠れて遠いところへ入れさせるか、もうひた隠しに隠していましたね。前よりは変わってきていますけれども、「家の恥」というものがある。たいていの人が精神病院へ入れるか、家で監禁となった。どこか「檻」か「溜」の中へ入れて社会から抹殺することでした。公安的な理由もあるんじゃないでしょうか。

【浅井】台湾も精神保健法が数年前にできましたね。台湾のベッドはたしかに人口1万対3、日本と比べて少ない10分の1程度ですね。ただその数と同じくらいが寺院にいるわけです。そこで治療を受けないで、働かされて、ときには鎖につながれていることも、チィン・チャオ・ピェン(元UCLA教授)がスライドで見せました。私も実際に見てきたのです。要するに、家族のほうは医療で薬を飲まされて病院に入れられ「あれは精神科にいる気ちがいだ」と見られるよりは、寺院に入れて、そちらのほうに寄進しながらやってもらったほうがよいという選択を同じぐらいの数しているのです。

韓国も精神保健法が3年前にできて、あそこも実は万対2から3ぐらいベッドがあるにもかかわらず、いわゆる収容所に同じくらいの数の方々が、リハビリテーション施設といいながら医者も看護婦もいないところに囲われていて、ひどいときには法を改正する前には、その中でさらに鎖につながれていると。毎年数十人なり火事で亡くなっているとか。

【加藤(正)】鎖でつながれたのを私も見ましたけれどもね、全員鎖です。

【浅井】ですね、全員そうです。台湾もそうでした。

【加藤(正)】それが最後に坊主がつかまりましたけどね。

【浅井】私が驚いたのは1997年のWFMHフィンランド大会のときに台湾のお坊さんたちが、精神障害者を鎖につないで作業をやらせているビデオを堂々とやっていたことです。これこそまさにモラルセラピィであると。医者の処方する薬は一切のませない。薬を使わないモラルトリートメントは宗教の力を借りてやるんだというのですけれども。同じアジアでありながら、日本との違いが、どうしてこんな形で出てきてしまったのかなと思いました。単なる経済力の違いとかいうわけではない。メンタルヘルスといいながら精神障害者の人権尊重という面では、本当に違う面がある。やはりどちらにしても精神障害者に対する偏見・差別は変わらない。

 今年は西暦2000年ですから、まさに精神病者監護法が1900年制定されてから100年目、また私宅監置を廃止した1950年の精神衛生法施行から50年目にあたります。100年後の姿というのは、私宅監置ではなくて、病院監置が? 世界で最も進んでいるというか…?。

 それでいながら、メンタルヘルスという立場からいうと、コミュニティで患者さんが住む場所があまりにも少なすぎる。政府が大きな旗を上げた「障害者プラン」でさえも、2002年に到達できる居住施設のキャパシティはせいぜい16,000人分ぐらいなのですね。ということは、人口万対1.4人分ぐらいなのです。かたや今の精神科病床は多く、万対28人以上ですが、圧倒的に居住施設が足りません。脱施設化を行ってきたアメリカでは、30年前、ケネディ教書が出た時点で、州立病院を中心に万対35ぐらいはありました。それが今、州立病院が万対4床ぐらいまで減ってきている。その他に民間病院とか、総合病院、司法精神科病床を入れても、万対13床ぐらいなのですね。ただ、ナーシングホームをはじめいろいろなレベルのレジデンシャルファリシティ(居住施設)が万対15床ぐらいあるのです。トータルにすると、病院・施設ケアは万対28床なのです。  

 日本では、退院患者さん等のために地域の中にグループホームなどの社会復帰施設をつくろうとすると猛反対で、総論賛成各論反対が多く、建設できないところがある。実際に沖縄でかなり頑張っている先生が、いろいろなところで筵旗を立てられて、グループホーム建設に何年もかかったり、他県でも反対が強くて建設ができなかったという話も聞いています。ある県の作業所等は作業所の周りに塀をつくって、駅からそこまでバスで送り迎えをするならば、その作業所は地域で認めようというような協定を結んだりとか、まだかなりそういう点での精神障害者に対する市民の理解は十分とはいえないと思います。

【西園】それは日本の場合、疫学調査などが実施不可能でしょう。それは世間が敏感だからそういうことなんだけれども、でも、日本人もだいぶ教育は受けたのだから、それをそれこそ精神保健で正しく伝えるということは大事ですよね。そして、われわれの専門家の中だけの話ではなくて、広げるといったことがね……。

 それは台湾に葉英埜さんという人がいるでしょう。彼はすばらしい研究をしています。あの人は疫学研究者ですが、大都会と中都市と田舎とその発生率を調べて、それから、ある年限経ってのち、もう一度調べて、どこが一番それがよくなっているかというのを調べた研究があるのです。一番よいのは大都会。家庭が崩壊している大都会ほどそういう寛解率がよい。一番悪いのは中小都市です。田舎はまだよい。この大都会がなぜよいかといったら、さまざまな施設ができている、人がいる、専門家がいる。田舎のほうは昔の家族が残っている。一番悪いのは中都市。

 こういうことで考えると、東京都の施設とか人とかというのは、私ども中都市に住むものからするとたいへんなものです。その次は横浜です。こういうところでは、社会復帰に関する活動はずいぶん整備されてきている。大都会の人はそれでも不満でしょうけれども、ずいぶんできています。ボランティアをサポートするシステムもできている。一番具合の悪いのは中都市です。そのような研究というのを、やはりちゃんと知らせるといったことが大事なんじゃないでしょうか。

【加藤(正)】伝統的な家族が壊れているほうが、かえってそういう偏見というのは少ないのではないでしょうか。

【西園】当然そうですね。むしろ大都会になってしまったら、大都会なりの新しいコミュニティというのができているわけです。そういうボランティアなどというのは東京はすごく整備されているでしょ。それは都会の生活の条件のようになっていますね。ですから、新しい時代に対してはそういう対策が取れるのかどうかということなのではないでしょうか。

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続く

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