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心と社会 No.110 33巻4号
巻頭言
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精神保健福祉総合計画のための医療保険と福祉との連携
はじめに
厚生労働省の精神保健福祉総合計画は、精神科病院を中心とする精神医療を、地域保険福祉を中心とする地域精神医療に変換することを明らかにしている。これはいわゆる「精神病院の底上げ政策論」であり、欧米各国が過去30年の間に行って来た「地域精神保健福祉」を、私立病院が主体である日本でいかに展開できるかという重要な課題である。欧米では精神病床を減少させて、多数の精神保健センターや、ハーフウエイ・ハウス、ボード・アンド・ケアホームなどを増やしたり、国民衛生法に基づいて地域担当の精神科医及び開業医と、地区センターのPSWとの共同作業に委託したり、24時間サービスのデイスパンセールを地区ごとに設置したり、胎児期から墓場までの医療福祉制度を活用したりして、地域精神医療福祉を展開し、精神科病床を福祉に転換してきた。日本はこの30年間にライシャワー事件なども影響して、精神障害者の病院内治療に重点をおき、精神科病床を増やしてきた。しかし日本では患者在院期間の2分極が起こっており、20−30歳代の新規入院患者の8割以上が6ヶ月以内に退院しているにもかかわらず、中高年者では家族構造の変化もあって社会復帰がますます困難になり、5年以上の在院者が46%で、在院患者は人口万対28床という精神科病床に含まれる長期在院者を抱えてきた。この病院中心の医療は、10年近く前から地域精神医療保健の方向を取るようになってきたが、なお依然として病院中心の精神医療から脱しきれないでいた。そこへいわゆる「精神医療の底上げ政策論」が起こり、既存の精神病棟を転じて病棟転換型社会復帰施設とする提案も行われている。この転換がどこまで可能か、10%程度では地域精神福祉への転換には不十分であり、病院から独立した福祉施設を増やしてゆく必要にせまられる。
1. いわゆる社会的入院の克服について
作業所、デイナイトケア、グループホームなどの社会復帰施設の努力にもかかわらず、多くの精神科病院に「社会的入院患者」が増えている。人口万病床数は日本の28床に対して、イギリス10床、ノルウエー8床、アメリカ7床、イタリア、カナダ6床、デンマーク4床であり、日本の精神科病院医療では、家族の入院延長の要求が強く、中年以上の社会的入院患者が増えている、。現在の38万床の入院患者の半数近くが5年以上の入院患者であるとされるにもかかわらず、家族構造の変化や、不況による就業の困難などによって、退院できずに社会的入院を続けているものが多く、社会的入院の多くは、40歳から65歳までの入院患者として多くの精神科病院に残っている。ことに終戦直後の差別的に低い精神医療点数以来、患者48人に1人の医師と、6(5)人の看護婦という最低の職員数に対応する低医療政策の下に、多数の社会的入院患者を生み出してきた。これに対して医師や看護婦定数を段階的に増やし、積極的な病院内医療と病院外の福祉リハビリテーションを行ってきた病院も少なくないのであり、定員増加に応じて医療費の増額が望まれる。現実は若年層の入院患者の退院は早くなったが、中老年患者の長期在院が増え、全体的に見れば半数近い46%の患者が在院5年以上の在院という状態になっている。
2.精神医療福祉職員の定員増加と、これに伴う低医療福祉費の克服
社会的入院の増加に伴なう医療費の増加は、例えばアメリカでは1960年代に精神科病床40万床の半数が老年性精神障害によって占められたため、社会的入院患者対策としてハーフウエイ・ハウスやグループホームや、2000箇所の精神衛生センターが、大統領宣言とともに建設された。これに反し、日本ではこの当時に起こったライシャワー事件以来、精神医療は閉鎖主義に戻り、乏しい医師看護婦と極端な低医療費のもとでの努力によって、約10年前から地域精神医療福祉への方向付けが始まったのであった。精神医療の底上げ政策が発表された以上、これからは本格的な地域精神医療福祉対策の展開が行われることが期待される。
3. 地域精神保健福祉の展開
ここ10年近く前からデイケア点数も増加し、グループホーム、ショートステイ、障害者作業所なども増えつつあるが、長期在院の社会的入院患者の地域への還元は、帰るべき家族の崩壊や、グループホームなどの設置に対する地域の反対などもあって、思うように進んでいない。地域社会精神障害者生活援助計画として精神障害者、特に社会的入院患者の生活援助計画が、ホームヘルプ、ショ−トステイ、グループホームなどの発展によって市町村単位に始められたが、その成果はまだこれからである。。また老人福祉活動の拡大によって、地域保健と地域福祉とが連携し始めたものの、医療と福祉との連携は、必ずしも密接ではない。例えば、福祉施設の長には、5年の経験でなれるが、その専門性にふさわしい教育や研修が十分に行われていない。それは精神医療保健の側から精神科医、看護婦、コメデイカルスタッフが、福祉の領域に入って共同して働くという機会がなかったことによる。「社会的入院患者」を地域へ返すためには、市町村委託の地域保険福祉センターで精神科医、保健婦などと、ケアマネージメント従事者、精神科社会福祉士、ホームヘルパー、患者家族などが、ともに患者の社会的自立と社会生活技術の快復について協力する場を与えることが必要である。特にホームヘルパーの精神保健福祉教育が重要である。これらの結果、社会的入院患者の病院依存を、自立と自発性の快復に切り替えるという重要な作業を、医療保健の働き手と福祉保健の働き手との協力によって可能にするため、、社会的入院患者に対する地域精神保健と福祉活動との協力が必要である。現実に医療、福祉全体における経済的困難が大きな課題であるが、ここしばらくの間、精神障害者の社会的入院患者の解決のために特別の経済的措置を認め、、関連領域の医療福祉の専門家はもちろん、患者家族やホームヘルパーを含む社会一般の方々の精神障害者の社会復帰への関心を高め、精神障害者の自立と自発性の回復に向かって、共同して実践してゆくことが当面する課題である。
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