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心と社会 No.134 39巻4号
巻頭言
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カウンセリングと創造性
知能も創造性も非常に高く、すぐれた創造活動を行ない、社会に大きな貢献をもたらした人を天才といい、歴史上に多くの天才を出していることは周知のことである。その点天才は身のまわりにはあまりいないと思っていた。ところが創造性の研究をし、それに基づいて天才のことを調べていくうちに、私のまわりに多くの天才がいることがわかってきた。大天才は少ないが、中天才や小天才は、身のまわりにかなりいるのである。
それでは創造性とは何かというと、私は「創造性とは、新しい価値あるアイデアやイメージを創り出す創造力およびそれを基礎づける創造的人格である」と考えている。創造力は創造的思考と創造的技能(創造的表現力)に分けられる。創造的思考(創造的想像)は、想像と思考、発散的思考(多様にひろがる思考)と収束的思考(一方向に導かれる思考)、または直観的思考と論理的思考(分析的思考)とがそれぞれ統合されたものである。創造的技能は、基礎的な技術のドリルによって、熟達することで従来の技術的水準を超え、新しい高次の水準に達した感覚、運動能力である。創造的人格は、創造的態度としてとらえられる。創造的態度は、創造性に関係のある人格特性を分析することで究明することができる。カウンセリング(ここでは心理療法と同じく扱われる)で開発するのは、創造的態度であって、これに基づいて創造的思考や創造的技術が開発する。次に創造的態度とは何かについて述べる。 (1)自発性 カウンセリングでは、洞察や気づきは自発的に生ずる。しかしその自発性は、その状況において適切性を持っていることが必要である。心理劇を創始したモレノ(Moreno,J.L.)は、創造性は自発性に基づいて創造活動を通して実現する。この所産が重ねられて文化として蓄積されるという。(2)独自性 独自性は他の人とは違った考え方や行動をする傾向で、個性と関係が深く創造性に発展する。その点カウンセリングは独自性、その人らしさを開発する。すなわち個性化をもたらす。(3)柔軟性 柔軟性はその状況に積極的に適応していく態度である。創造性の開発には、常にその独自性を保ちながら、自己のワクを打ち破って新しい自己を生み出していく柔軟性が大切である。(4)衝動性 心的エネルギーのパワーの強さであり、意欲の強さである。短期の創造活動に役立つ。(5)持続性 心的エネルギーの持続性であり、長期の創造活動で働く。衝動性と持続性は、一見反対のように見えるが、いずれも生命力、活力のパワーであり、心的エネルギーの状態であって、創造活動を引き起こし、活性化させる。(6)探求心 好奇心ともいい、新しい経験をしたい、目標を達成したいという欲求であり、創造力を育てる。(7)注意集中 1つの事に注意を集中することである。これは、観察力、理解力、記憶力を高め、直感的思考や創造力を開発する。(8)共感性 共感性は相手の感情を相手の内部的照合枠から感じとることができることで、相手の感情と共有する体験である。ロジャーズ(Rogers,C.R.)は、共感的理解と言っている。
創造性を開発するには、創造性を阻害する条件を見つけて除法するか、その影響を軽減することである。この研究を最初に行なったのは、スタンフォード大学工学部教授のアーノルド(Arnold,J.E.) で、彼は創造性開発の阻害条件として、認知の障害、文化の障害、感情の障害の3つを挙げている。認知の障害は、本当の問題をとらえられなかったり、間違った見方や固定した見方をしたりしていることなどである。文化の障害は、善悪等の二値判断や規制に制約されたり、同調性や過度の競争にしばられたり、異文化に抵抗を持ったりすることである。また感情の障害は、不安や欲求不満に耐えられなかったり、劣等感、自信の欠如、対人関係がうまくいかないなどである。これらの障害、特に感情の障害を除去するには、カウンセリングが役立つ。
カウンセリングでは、カウンセラーとクライエントとの信頼できる人間関係の中でカウンセラーとクライエントは、それぞれ未知の世界に挑戦し、それを究明し、また問題解決場面に直面して、それを解決していくことになる。クライエントは、その時までに気づかなかった自己を発見し、新しい自己を創造していくと共に、カウンセラーは、クライエントの中に固有の可能性のみならず、その人格の基底に存在する普遍的な人間性を発見し、実現させていくのである。そこでカウンセリングは、カウンセラーやクライエントにとって創造過程であるということができよう。
創造性を開発し、新しいアイデアやイメージを創り出し、創造的に問題を解決し、創造的態度を養成する技法としての創造技法は、現在300種以上挙げられているが、これらを高橋誠が創造過程の特徴に基づいて、発散技法(アイデアやイメージを出す)、収束技法(アイデアやイメージをまとめる)、統合技法(発散と収束を繰り返す)、態度技法(創造的態度を養成する)に分類している。筆者はその中で態度技法としてカウンセリング(心理療法)を整理している。例えば認知法(認知行動療法など)、表現法(芸術療法など)洞察(直感)法、(精神分析療法など)、イメージ法(イメージ療法など)、行動法(臨床動作法など)、体験法(クライエント中心療法など)、瞑想法(内観法など)、グループ法(集団療法など)、統合法(マイクロカウンセリングなど)として分類してみた。以上のことから、創造技法またはその原理をカウンセリング(心理療法)に適用したり、またはカウンセリング(心理療法)の技法や原理を創造技法に取り入れていくことが、双方の技法や原理の発展のために重要な課題になると思う。
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