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慶應義塾大学SFC研究所・上席所員 岡 檀 自殺の少ない町では幸せな人が多いのだろうか私は、自殺問題を研究テーマに選んだ当初から、自殺希少地域(自殺発生が極めて少ない地域)に関心がありました。なんとなく頭に浮かんだのが、この言葉です。自殺の少ない町では、幸せな人が多いのだろうか―。 そもそも、自殺の少ない町とは日本のどこにあるのでしょう。国の内外を問わず、自殺の地域研究のほとんどは自殺“多発”地域、自殺率の高い地域の研究であり、自殺希少地域に関する先行研究は手つかずの状態でした。自殺希少地域を対象とした研究を行うと決めたからには、まずは、その自殺希少地域を特定する作業に着手する必要がありました。 そこで私は、全国3,318市区町村の30年間の自殺統計をすべて参照し、人口規模や年齢分布の格差などを調整する指標を作って、全市町村の自殺発生率を比較しました。その結果、徳島県旧海部かいふ町ちょう(現海陽町)が日本で“最も”自殺の少ない町であることが明らかになったのです。 本稿は、この町を対象に私が四年間かけて行った調査の結果をお伝えするものです。私が抱いた「自殺の少ない町では幸せな人が多いのだろうか?」というこの問いを、皆さんも頭の片隅に置きながら読み進めていただければ幸いです。 日本で“最も”自殺の少ない町海部町は徳島県の南端、太平洋に面した、人口3,000人前後で推移してきた小さな田舎町です。かつては農業、漁業、林業が盛んでしたが、昭和の高度成長期以降に衰退し、現在は他の多くの町村と同じく少子高齢化と過疎化の問題を抱えています。地勢や産業、人口分布などは周辺町村と共通点の多い海部町ですが、江戸時代末期に木材の集積地として飛躍的に隆盛し、多くの移住者によって発展してきたという独特の歴史を有しています。
私は2008年に初めて現地に入り、200人を超すインタビュー、参与観察などを行いながら、日本で最も自殺の少ない海部町に特有の要素とは一体何なんだろうと考え続けました。自殺「希少」地域に強く現れるが、自殺「多発」地域では弱い/存在しない要素―、それがすなわち「自殺予防因子」であるという仮説を立てて、海部町と同県内にある自殺多発地域・A町の比較も行いました。 仕上げとして、フィールド調査から得られた知見を検証するために、無作為抽出された約3,300人の住民を対象にアンケート調査を実施し、数量的な分析を行って、海部町コミュニティに特有の要素を探索していきました。そのようにして抽出されたのが、海部町における5つの「自殺予防因子」です。
@異質な要素を受け入れ、多様性を重視する こうした海部町コミュニティの雰囲気が伝わるように、いくつか事例を交えながら書き進めてみます。 2.多様性にこだわる、均質化を嫌う。/対等な関係を維持する。/ゆるやかに、つながる。 1.自殺の少ない町では幸せな人が多いのだろうか/日本で“最も”自殺の少ない町 |
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