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加藤典子 1)2) 宇都宮健輔 1)3) 簡易型認知行動療法とは認知行動療法について聞いたことがあるという方は多いかもしれません。認知行動療法は、考え方(認知)や行動のパターンを見直して、問題を解決していくことで症状を改善していく精神療法(カウンセリング)の1つです。認知行動療法は、アーロン・ベックというアメリカの精神科医によってうつ病の治療法として開発され、うつ病だけでなく、不安症や統合失調症といった精神疾患、身体疾患に伴ううつや不安、健常者のストレスマネジメントといった幅広い領域や対象に活用されるようになっています。日本では、2010年からうつ病に対する認知行動療法が診療報酬の適用になり、精神科医療の現場での活用が広がりつつあります。さらに、職域においても、認知行動療法の考え方に基づくアプローチがメンタルヘルス対策として有効であることが報告され、今後の活用が期待されています。 しかしながら、従来の認知行動療法は訓練を受けた治療者が患者さんと1対1の面接を通して実施する治療法で、実施のコストが高いため、医療現場においても普及が十分には進んでいません。そのような限界を克服して、認知行動療法を普及するために、近年書籍やコンピュータ、インターネットサイトを活用してコストを削減した認知行動療法(簡易型認知行動療法)が発展してきました。簡易型認知行動療法は、うつ病や不安症といった精神疾患の治療に有効であることが多くの研究で確認されています。さらに、簡易型認知行動療法は、精神疾患にとどまらず、労働者を対象としたメンタルヘルス不調の一次予防のためのセルフケア教育としても活用されるようになっています。近年、国内外の研究においてインターネットによる簡易型認知行動療法により労働者のうつ病の発症率を低下したことが報告されています5-6)。 2つの簡易型認知行動療法プログラム労働者に対するメンタルヘルスの向上のための支援の方法として、インターネットの認知行動療法サイト「こころのスキルアップトレーニング」のコンテンツを活用した簡易型認知行動療法プログラムを2つ開発しました。1つ目は、うつ病・適用障害から職場復帰した労働者を対象としたプログラムで、@導入と心理教育、A認知再構成法(5コラム)、B認知再構成法(7コラム)、C問題解決法、Dアサーション、E再発予防の全6回で構成されており、1回30分程度の実施時間となっています。 職場復帰のためのプログラムを参考にして、平成28年度には、ストレスチェック後の高ストレスの労働者への支援を目的として新しいセルフケア教育プログラムを開発しました。この2つ目のプログラムでも、認知行動療法サイト「こころのスキルアップトレーニング」のコンテンツを活用しています。こちらは、@導入と心理教育、A行動活性化、B認知再構成法(3コラム)、C認知再構成法(7コラム)、D問題解決法、Eアサーション、F再発予防の全7回のセッションで構成されています。 これらのプログラムを職域の多くの現場で活用してもらえるように、実施者用マニュアルと参加者用のガイドブックを作成しました(図2・図3)。これらのプログラムは、基本的に参加者自身によるプログラムガイドを用いたセルフヘルプの取り組みを主体としていますが、セッションの一部に産業医、保健師、臨床心理士といった産業保健スタッフが同席をしてサポートすることが特徴となっています。
終わりにここまで、私たちが開発した労働者のセルフケアスキルを向上させるための簡易型認知行動療法プログラムについて紹介をしてきました。わが国の労働者のメンタルヘルス対策において、復職後や高ストレスの労働者といったメンタルヘルス不調のリスクの高い方を対象とした個別対応の試みは始まったばかりで、まだ十分に効果が検証されているとはいえません。しかしながら、集団に対する介入を中心に発展してきたメンタルヘルス対策とは異なる切り口での新しい手法であり、今後の活用が期待される方法だと考えています。 一方、私たちは、職域におけるメンタルヘルス対策としてのセルフケア教育は、常に事業者に課せられた安全配慮義務に基づく職場環境の調整・改善と合わせて用いられるものでなければならないと考えています。セルフケアの向上が有効であるということをもって、職場におけるメンタルヘルス不調の責任を個人に帰するようなことは厳に慎まなければなりません。ご紹介したプログラムについても、これまでのメンタルヘルス対策にとってかわるものではなく、これまでの方略と相互に補い合う手法になって、労働者のメンタルヘルス増進に寄与することを祈っております。 参考文献 はじめに/職場復帰後の労働者に対する支援の現状 |
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