東京大学相談支援研究開発センター 大西晶子 3.留学生の体験・外国人に向けられた視線欧米諸国における留学生に関する報告では、留学生への支援の遅れや、アジア系学生に向けられる差別等の問題が指摘されている(Chen et al.,2020;Cheng, 2020;Mason, 2020)。ウイルスを特定の集団と結び付け差別や攻撃の対象とする状況は、T期において国内でも懸念されたが、入国が停止された後には表面的には目立たなくなった。しかしながら入国者数の増加と感染拡大とは、常に結び付けて報じられており、全体として排外的な雰囲気が強まっている。公共の場で好意的ではない視線を感じたり、外国人と日本国籍 者の区分を合理的な理由なく強調する入国制限の方針に、不安や傷つき、憤りを体験したりする学生も少なくない。 ・感染防止策の国による相違時間の経過とともに、各国の感染予防対策の違いが際立っており、個人の権利を国が制限し管理することで感染をコントロールすることに慣れた学生の中には、日本の対策に不安を強く感じる学生がみられる。他方、国際的にみると桁違いに少ない感染者数にも関わらず、水際対策を緩和しない状況を差別的と感じる学生もいる。また感染への不安や、感染予防に対する認識は、留学生、国内生ともに個人差が大きく、研究室や寮、ルームシェアなどの集団生活の場は、そうした考え方の違いによる、学生間の緊張関係が生じやすい場となっている。 ・母国と日本の感染拡大状況の相違国外の感染状況に関しては、感染拡大初期に比べるとニュースでもあまり報じなくなっており、そもそも途上国の状況については情報が限られる。留学生の母国の様子に周囲の人々の想像が及ばない中で、学生自身もそれを口にしづらく、親しい人たちの感染を心配しながら、孤立感・孤独感が増す状態がある。(相対的に)安全な国外にいることに罪悪感を抱いたり、また近親者を亡くしたことへの現実感がわかず喪の作業が進まない様子もみられる。 ・社会的援助資源の制限対人交流全般がいまだに大きく制限されている中で、同国人・留学生同士はSNS上で活発につながっていく様子がみられた。一方で関係が非常に限られた仲間内に閉じていたり、よく知らない相手と短期間で親しくなったりする状況もあり、対人関係のトラブルや恋愛関係のこじれなどの相談が目立った。またV期以降に入国・入学し、学生生活を始めた学生は、対面の大学生活の経験がほとんどなく、学内に知り合いもいない。通常、留学生は、同級生や先輩学生とやりとりしながら、日本の大学や研究室コミュニティで求められる知識・スキルを習得していくが、対面授業やサークル活動、研究室の懇親機会の制限によって、日常の中での学びの機会が激減している。こうした状態は、精神面への悪影響はもちろんのこと、学修面にも深刻な影響を生じさせている。学生自身もその状況を認識しており、入国していない学生は当然のこと、国内にいる学生も、留学の意味・意義・成果を十分に感じることができない虚しさやくやしさ、焦りを体験している。
1.はじめに/2.感染症の拡大と留学生 |
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