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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

11 女性の貧困とメンタルヘルス

立命館大学産業社会学部
丸山里美

 

どんな女性が貧困に陥りやすいか

 このような社会のなかで、女性には基本的に3つの道があると考えられてきた。父親に扶養されるという道、夫に扶養されるという道、そして1980年代以降拡大してきているのが、女性自らの労働によって自立するという道である。そしてこの3つの標準的な道からはずれてしまうと、女性は途端に貧困に陥りやすくなる。それが特に顕著に見られるのが、母子世帯の母、高齢単身女性、未婚の若い単身女性である。

 母子世帯は現在123万世帯いるといわれており、そのうち離別母子世帯が80.8%と、大半を占めている。死別母子世帯であれば遺族年金や保険金が入るのに対して、そうしたものがない離別母子世帯は、より貧困に陥りやすい。養育費を受け取っているのはわずか19.0%にすぎず、母子世帯の母の80.8%が働いているが、育児をしながらできる仕事は、低賃金で不安定なものになりやすい。実際、母子家庭の平均年収は223万円で、一般世帯の半分にも満たず、非常に貧困であるv。とりわけDVで離婚した場合には、暴力にさらされた影響でPTSDや自尊心の低下などが見られるうえ、身を隠しながら新しい土地で一から生活をつくりあげていかなければならず、女性の負担は非常に大きい。さらに重要なことは、こうした母子世帯の状態が、子どもの貧困の最大の原因になっており、世代間で貧困が再生産されかねないということである。

 高齢単身女性については、その数は増加傾向にある。長寿化の進行によって高齢者自体の数が増えているうえに、女性の平均寿命は86.8歳で、男性の80.5歳よりも長く、結婚後に親と同居する子も減少してきているため、より多くの女性が高齢期を単身で過ごすことになっているのである。高齢期の収入の大半を占める年金は、現役時の雇用状態と婚姻関係を反映したものであるため、早くに離婚した女性や、生涯未婚のまま高齢になった女性は、低賃金の労働をしていた期間が長くなりがちであり、高齢期は特に貧困に陥りやすい。

 また最近になって、未婚の若年女性の貧困に注目が集まってきている。その背景には、若年層で非正規雇用が顕著に増加していることがある。現在では、労働者のうち15〜24歳で48.6%、25〜34歳で28.6%が非正規雇用者viであり、その割合は女性でより高い。学歴が低くなればなるほど、さらに非正規雇用率は高くなり、女性で中卒・高卒だと半数以上にのぼる。非正規雇用の女性の平均年収は143.3万円viiであり、夫や父親とともに暮らしていない単身者であれば、その生活は非常に厳しい。しかし男性の低賃金・非正規化も進んでいるため結婚も難しくなり、単身で暮らす女性は増加してきている。こうしたなかで、学歴が高くない女性にとっては、自ら稼いで自立していく未来も、結婚して夫に養ってもらう未来も、描くことが難しい閉塞的な社会になってきているのである。くわえて、労働条件や職場環境全体が悪化しており、それが原因でメンタルヘルスに問題を抱える女性も少なくない。最近では、貧困のために性産業ではたらかざるをえない女性の実態を描いたルポルタージュも出版されるようになっているviii。そのなかでは、精神疾患を抱える女性が仕事をしようと思えば、時間の自由がきく性産業以外に選択肢がないという実態も報告されているix。2014年1月のNHKの『クローズアップ現代』では、寮や食事、託児所つきの風俗店ではたらく女性が増えてきているという報道がなされ、「福祉が風俗に敗北した」と大きな話題になった。

 

3.見えにくい女性の貧困/女性は貧困にすらなれない?

1.はじめに/なぜ女性は貧困なのか
2.どんな女性が貧困に陥りやすいか
3.見えにくい女性の貧困/女性は貧困にすらなれない?
4.もやいの女性相談者から見えるメンタルヘルスの問題/おわりに

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