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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

2 過重債務者問題と心理臨床

過重債務者問題研究会 主宰  松井正人


はじめに

 お金や債務の問題が絡んだクライアントを持つ心理臨床家と話をしていると、「お金の問題は難しい」「お金の問題は解決できない」「警察はあてにならない」「誰も頼りにならない」と言う言葉を耳にすることがある。確かに、かつては制度も法律もお金の問題に苦しむ消費者に適切に対応できない時代もあった。しかし平成22年6月の改正貸金業法完全施行1以降、適切に対応すれば「お金の問題は必ず解決する」「警察も協力してくれる」「適切な相談機関がある」と言う時代になった。長年、多くのクライアントの相談を受けている経験豊富な心理臨床家に限って、かつての経験からお金の問題を避けているのではないだろうか。ここでは最新のお金の問題に関する制度について紹介していきたい。

過重債務者問題とは

 一般的には多重債務という言葉が広く使われている。これは平成19年2月末時点で5件以上の貸金業者から借りている多重債務者を180万人2と金融庁が発表したのが一つの理由だ。しかし現実問題として、必ずしも5件以上の業者から借りていなくとも収入に見合わない過重な債務を負っていれば、それはとても大きな問題だ。また過重債務は債務自体が問題なのではなく、問題になるほど借り入れをしてしまう当事者に問題があることが多いことから、私はこのような問題を総称して「過重債務者問題」と、必ず「者」をつけて呼称している。そして、「過重債務者問題研究会」を主宰し、様々な領域の専門家が情報を共有し、少しでも過重債務者問題が減るよう情報発信をしているのだ。

借金は悪なのか

 過重債務問題に悩んでいる方と対すると、「なぜ借りたのか」と問い質したくなるし、お金を借りることが悪いのではないかと思いがちである。しかし現代社会に生きていくうえで借金を避けては生活できないのではないだろうか。クレジットカードで買い物をするとポイントがたまるので便利に利用している方もいると思うが、これもある意味借金であり、海外旅行で現地通貨をクレジットカードで引き出せばこれは正に借金である。旅先で円からドルやユーロ、そして現地通貨に両替すると為替差損や手数料は馬鹿にならないが、クレジットカードでキャッシングすると手数料や利息を勘案しても却って得な場合がある。住宅や車のローンもある意味未来の価値を金利で買っていると考えることができる。「借金は悪なのか」、この問題に明確に答えているのが(社)全国労働金庫協会発行のマネートラブルにかつ!3だ。この資料には、古代・中世のわが国では、「借金は社会を営むための潤滑油の役割を果たしてきた」と説明されている。また、「籤(くじ)や順番で必要な人に貸す頼母子や無尽などは、地域の絆を強める役割も果たした」としている。個人の資金ではなかなかまとまったことはできないが、みんなで少しずつ出資して大きなことを実現させるのは今も昔も変わらない。
 一方、この資料には江戸期の山形県の天領・長瀞村の騒動も記されている。「借金が払えず田畑を取られた農民たちが貸し手に直談判、しかし、幕府は周辺の藩に出兵を命じこれを鎮圧します。以降、現在まで貸し手優位の時代が続いたのです」と説明されている。

2.サラ金問題/平成のサラ金問題

1.はじめに/過重債務者問題とは/借金は悪なのか
2.サラ金問題/平成のサラ金問題
3.貸金業法の改正と闇金規制の強化/消費者庁の発足
4.過重債務者の問題/お金の問題は必ず解決できる

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