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こころの健康シリーズVI 格差社会とメンタルヘルス

3 非正規労働(ワーキングプア)とメンタルヘルス

NPO法人POSSE 代表  今野晴貴


2、非正規雇用問題の変化とメンタルヘルス問題

・家計自立型非正規雇用の相談事例

 以上のような非正規雇用の変化により、@家計自立型非正規雇用、Aトライアル雇用化、B全般的な過酷化の結果、メンタルヘルス疾患の事例が増加している。

 一例を紹介しよう。「正社員になるための研修」として、非正規で一年間働き続けている男性からの相談だ。彼は専門学校を卒業後、就職したのだが、2.3ヶ月間はアルバイト、その後正社員になるはずだった。しかし、すでに一年働いていているにもかかわらず、契約書や就業規則などはなく雇用形態は不明。待遇はアルバイトと変わらないまま、給料は月10.12万円で、労働時間も長く、毎日朝7時半に家を出て帰宅は夜12時半。タイムカードもなくサービス残業をしている。仕事の内容も正社員とほとんど変わらなかった。低賃金と不安定な雇用のまま長時間労働を続けた結果、彼は全身に湿疹ができるようになり、精神的ストレスと病院で診断された。

 この事例のように、家計自立型非正規は、正社員になるための「研修」「トライアル」として、正社員と同様の過酷な労働を求められている。加えて、低賃金と雇い止めの不安定さを抱えている。このように家計自立型非正規は、新しい雇用類型としてメンタルヘルスに罹患するケースとして問題化している。

 もちろん、2000年代に増加した製造業の派遣労働も、家計自立型非正規が本格化したものであり、正社員とあまり変わらない仕事を、低賃金と不安定雇用のなか続けていた。とはいえ当初は、派遣労働者として契約更新を続けられるという「期待」があっただろう。

 だが、リーマンショック後に頻発した派遣切りで、その「期待」は完全に打ち砕かれてしまった。特に2008年12月末の大晦日には大勢の派遣労働者が雇い止めされ、寮から路上に放り出された。数百人の失業者が列をなした「派遣村」のインパクトは大きく、使用者が派遣労働者の生活などまったく考慮せず、彼らを自由に使い捨てることの象徴であったと言えよう。

・「主婦パート」の変化とメンタルヘルス

 一方で、非正規雇用のメンタルヘルス問題は、「家計補助型」であったはずの「主婦パート」も例外ではない。パート労働者は60年代以降、職場においても補助的な仕事を担当していた。ところが、90年代以降「パート基幹化」が進み、「主婦パート」が正社員の代替とされ、正社員が削減されるようになっていった。そして、ますます正社員に近い働き方が増えている。

 大手食品スーパーの食品加工部門でパートとして働く30代の女性の労働相談では、彼女は時給900円で週5日働き、月12.13万円の労働でありながら、残業は一日2.3時間、月40時間以上に及び、サービス残業も強いられていた。パワハラも就職直後から続いていた。その結果、ストレスでうつに罹患し、仕事に集中できなくなってしまった。しかも彼女は、パートの雇用期間が終わってから新しく雇用契約書をもらえず、更新のないままに働いていた。

  このように、「家計補助型」であったはずの「主婦パート」も基幹化により、正社員なみの過酷さと、非正規の不安定さのなかで精神疾患に追い込まれている。

3.非正規雇用と生活保護

1.はじめに/非正規雇用の広がりと変化
2.非正規雇用問題の変化とメンタルヘルス問題
3.非正規雇用と生活保護
4.非正規雇用のメンタルヘルスへの対策

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