三原聡子 北湯口孝 橋本琢麿 前園真毅 上野文彦 中山秀紀 樋口 進 ネット依存の治療の実態諸外国と同じように、わが国でもこの問題が深刻になってきていることをうけ、我々、久里浜医療センターは、長年の依存症治療の経験がわが国におけるこの問題の対策にいくばくか貢献できるのではないかと考え、2011年7月、ネット依存専門治療外来を立ち上げました。現在までに、日本全国から1200例以上のケースが受診されました。 ネット依存外来の患者さんのおよそ8割が、中学生、高校生、大学生です。性別では男性が約9割を占めています。 初診時に、ネット依存に関連して起きている問題としては、成績低下や遅刻、欠席といった学校に関連する問題がほとんどの受診者に起きています。さらに、不規則な食事や昼夜逆転、家族への暴言・暴力、引きこもりといった、体の健康や本人の将来、家族関係に関わる深刻な問題も半数以上のケースに起きています。
ネット依存のベースに、ADHDや広汎性発達障害などの発達障害を有していたり、合併精神障害が存在するケースも見うけられます。たとえば、韓国のHaらは、ネット依存者の75%が合併精神障害を有しており、注意欠如多動性障害(ADHD)と気分障害の割合が特に高かったと報告しています。 ADHD傾向のある子ども達は、衝動のコントロールが不得手で自分が興味を持ったものにはのめり込みやすい一方で、興味が持てないことには努力のいかんに関わらず注意が向かない傾向があります。学校生活の中で、向けるべきところに注意が向けられず聞いていないように思われたり、忘れ物や物をなくしてしまうことを繰り返し、周囲からからかわれたり、「怠惰だ」と誤解されたりして自信を無くしている子も多くいます。ネットの世界はいくつもの作業を同時に行うことができ、反応もすぐに返ってくるなど、ADHD傾向のある子ども達の注意をひきつけ、飽きさせない要素がたくさん含まれています。 また、広汎性発達障害のある子どもたちは、友達が欲しいと思っていても、不器用で現実の中でうまく友達を作ることができないことも多いのですが、ネットの世界では、複雑で直接的な人間関係にわずらわされることなく、豊富な知識を活用して居場所ができるなど、のめりこんでしまいやすい要素がたくさんあるのです。 ネットの使用時間を減らしていくには、他のことに興味が向き、そちらの活動が増えていくことが望ましいのですが、発達的な課題のあるネット依存の子どもたちのコミュニケーションの苦手さからくる社会適応の困難さが、回復をさらに難しくしています。 ネット依存の治療に関しては、その方法や有効性に関する研究の蓄積も未だ世界的に乏しい状況にあります。治療に関するメタ解析結果によりますと、心理社会的治療の有効性は認められましたが、解析の対象とした研究は全般的に研究対象者数も少なく方法論も稚拙なものが多かったといいます(Winkler,2013)。しかし、先に述べましたように、ネットの過剰使用は、各国において大きな健康・社会問題になっており、既存の依存症治療の方法論などを参考にしながら各国において様々な取り組みがなされはじめています。 当院では、患者さんの治療への動機づけのレベルや合併精神障害の有無に合わせて治療方法を選択していきます。すなわち、精神科主治医による個人精神療法や心理士による個人認知行動療法、集団認知行動療法やSST(Social Skills Training ; 生活技能訓練)を含むデイケアへの参加、入院治療、ネット依存治療キャンプ、ご家族ための家族会などです。 次に、ネット依存治療キャンプを略述しながら、ネット依存の要因および結果としてのコミュニケーション問題とその治療を概観したいと思います。 はじめに/ネット依存の実態 |
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