東京慈恵会医科大学精神医学講座 内海智博/久留米医科大学神経精神医学講座 小曽根基裕 はじめに近年はグローバル化が著しく、海外進出をする企業や海外出張をする労働者が増加傾向にある。海外在留邦人数調査統計によると、平成29年10月1日の集計で海外に進出している日系企業の総数は75531拠点と増加傾向である。また、在留邦人数は135万1970人で過去最高となり、長期滞在者数のうち、民間企業関係者が46万3700人を占めており、海外での労働者は増加している(30)(図1)。また観光目的でも、出国人数は1970年代から上昇し、最近は1600万〜1800万人を推移し平成30年は1,895万4,031人と過去最高となった(31)。一方、月に21日以上海外に滞在する人は、1週間未満滞在する人に比して、有意に睡眠問題リスク、Generalized Anxiety Scale、Patient Health Questionnaire score、またアルコール依存のスクリーニング指標であるCAGE scoreは高値を示し(1)、概日リズムの変化はメンタルヘルスに影響を与える。 本稿では概日リズムの観点から短期間の海外出張に伴う「時差障害」と「サマータイム制度」について述べる。 図1 1.概日リズムとは睡眠と覚醒のみならず、ホルモン分泌、深部体温、精神作業能などには24時間周期で変動するリズムが認められ、時刻に依存して機能の上昇や低下がみられる。これらのリズムは生物時計の概日振動による内因性リズムと環境変化などの外因性リズムの影響を受けて成り立っている。ヒトは洞窟などで昼夜変化や時刻の情報から隔絶された生活を送ると、深部体温リズムや睡眠覚醒リズムの周期が24時間より長くなり、体内の生物時計と外界の生活時間にずれが生じ、(外的脱同調)、就寝時刻と起床時刻が遅れる。これをフリーランリズムと呼び、人では約25時間前後である(2)。その生活をさらに継続すると、体内の深部体温リズムと睡眠覚醒リズムの位相関係もずれる(内的脱同調)(3)。 通常の生活では24時間周期の表現型リズムとなるが、洞窟では異なる。高照度光はフリーランを阻止し(4)、位相を調節する作用(5)等が認められ、ヒトの生物時計に最も強い効果を持つ同調因子である。深部体温や睡眠のリズムは、早朝に強い光を浴びると早寝早起きの方向へリズムがずれ、逆に就寝時刻に浴びると、遅寝遅起きの方向にリズムがずれる特性を持っている(6)。一方、ヒトは食事や朝の挨拶など時刻を意識するイベントや自分の意思によりリズムを同調させることができる(社会的同調因子)。 ヒトの生物時計は視床下部の視交叉上核にある。この生物時計には、周期の異なる2つの振動体が存在し、25時間周期の強い振動体は深部体温やメラトニン分泌リズムなどを支配し、30時間周期の弱い振動体は睡眠覚醒リズムや皮膚温などを支配している(7)。 概日リズム睡眠障害は、上述の概日リズムの維持やその同調、あるいは内的リズムと外的環境とのずれによって生じるもので、不眠や日中の過度の眠気、学習障害、精神障害、社会的問題など様々な障害を生じる。睡眠障害国際分類第3版によると、概日リズム睡眠覚醒障害群を「睡眠・覚醒相後退障害」「睡眠・覚醒相前進障害」「不規則睡眠・覚醒リズム障害」「非24時間睡眠・覚醒リズム障害」「交代勤務障害」「時差障害」に分けられている(8)。
はじめに/1.概日リズムとは |
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