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こころの健康シリーズ[ 国際化の進展とメンタルヘルス

No.11 「外国人児童生徒」のメンタルヘルス〜支援の現場から〜

愛知教育大学日本語教育支援センター 菅原雅枝


外国人児童生徒とことば

 文部科学省は「日本語指導が必要な児童生徒」を「日本語で日常会話が十分にできない児童生徒及び、日常会話はできても学年相当の学習言語が不足し、学習活動への参加に支障が生じて」いる児童生徒と説明している。一般に、日常会話など生活場面で必要とされることばの力の獲得には1〜2年、読み書きを含め学習場面で必要な力の獲得には5〜7年以上かかるといわれる。子どもたちはかなりの長期にわたって、日本語力に由来する課題に直面することになる。日本語が主流言語である学校に通っているにも関わらず日本語ができないということが大いなるストレスをもたらすことは疑うべくもない。ことばで表現できないもやもやした思いを、友だちに手を出す、泣きわめくといった「行動」として表してしまう子どもたちは多い。まさに、「物言わぬは腹ふくるるわざ」なのである。また、自分の名前は聞き取れるが何を話しているかわからないといった状況に置かれると、「自分のことを笑っているのではないか」「悪く言われているのではないか」と不安を感じるケースも少なくない。日本語支援者とは笑顔で話せるのに、窓の外にクラスメイトや先生の影が見えると途端に口をつぐみ、無表情になってしまう男児がいた。クラスの様子も見せてもらったが、仲の良い、落ち着いた学級に思えた。先生もクラスメイトも一生懸命外国から編入してきたその児童に話しかけ、働きかけていたのだが、それが逆効果となっていたようであった。

 日本語で行われる教科学習についていけないことに強いストレスを感じる子どももいる。小学校高学年の女子児童は「フィリピンの算数はできるけど、日本の算数はできない。私バカになっちゃった」といっていた。先述の通り、学習場面で必要な日本語の力を身に付けるには長い時間が必要である。しかし、日本語での会話ができるようになるにつれ、本人も、周囲の子どもたちも、教員も、学業不振の要因が日本語にあることを忘れてしまう。授業についていけないという現実は、子どもたち、とくに母国では優秀であった児童生徒に重くのしかかり、自信を失わせる。そしてそれは学習意欲の低下につながり、「どうせ無理」と本人が思うようになってしまう。母国で学んできたことの価値や子どもたちが培ってきた力を認め、それをいかし、日本(語)での学習につなげていくという意識が支援する側には必要であり、子どもたちにそれを理解させることも大切である。

イラスト2

 こうした様子の子どもたちを支援する人々から「日本語以外の問題(特別支援教育の対象)ではありませんか」と質問されることが増えている。私は専門家ではないのでそうした判断はできないとお断りしたうえで、日本語の習得にかかる時間の長さ、置かれた状況がストレスフルであることなどを考えあわせると、急いで結論を求めることなく、子どもの様子を見守る必要があるのではないか、とお伝えしている。

 日本語を学習中の子どもたち同様、日本滞在が長くなり日本語が優勢になった子どもたちもことばの問題でストレスを感じている。日本の学校に通う子どもたちにとって、授業や人間関係づくりに不可欠な日本語の重要度は高く、接触する時間も長い。一方、子どもが属する社会の中で使われないことば(母語)に対する評価は低くなり、だんだん使われなくなる。使わなければたとえ母語であっても失われていく。一般に外国人保護者は日本語学習の機会が少なく、子どもたちのように日本語を習得するのは難しい。子どもが母語を失うことは、親子間で心から話し合うための言語がなくなることを意味する。来日初期に友だちに対して感じた「気持ちを伝えることができない」もやもやを、今度は保護者に対して感じることになる。もちろん、保護者ももどかしい思いは同じである。子どもたちのメンタルヘルスの問題を考えるとき、親子で深いコミュニケーションがとれないことは大きな課題になるに違いない。

 

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