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こころの健康シリーズ[ 国際化の進展とメンタルヘルス

No.7 外国人留学生のメンタルヘルス −実態と課題−

JAFSA(国際教育交流協議会)多文化間メンタルヘルス研究会代表 大橋敏子


はじめに

 日本で学ぶ外国人留学生(以下、留学生と略)の数は、2019年5月1日の時点で312,214名(うち、高等教育機関に在籍する者228,403名)を数えるようになった。

 世界各国からの留学生が日本で学び、生活することを通じて日本の文化、社会、日本人に触れることができ、また日本社会も彼らの文化に接することにより、互いに理解を深めることができる。そうした留学を意義あるものにする上で、留学生の健康を守ること、とりわけ心の健康(メンタルヘルス)を維持することは重要なことである。

 本研究会では、JAFSAの助成金による「外国人留学生のメンタルヘルスのための危機介入ガイドライン」1)の策定を手始めに、多文化間メンタルヘルスに関する様々な課題の解決に向けた研究や実践を行っている。

 本稿では紙幅の関係で、大橋の研究および実践に基づいた留学生のメンタルヘルスについて述べる。

1.留学生のメンタルヘルスの特徴

 まず、大橋2)が実施した症例調査研究に基づき、その結果を報告する。

1)症例調査の概要

 国籍構成は、計34カ国61件(アジア16カ国38件、ヨーロッパ9カ国9件、北米1カ国3件、中南米3カ国5件、アフリカ3カ国4件、オセアニア2カ国2件)。性別は、男性40件、女性21件。婚姻状況は、未婚者50件、既婚者11件(うち、単身での来日者 6件)。有病歴者4件。遺伝負因のある者2件。自殺件数は、既遂者4件、未遂者5件。入院は、自殺念慮3件、興奮混乱状態1件、妄想状態1件、心身症1件。専門家の関与は、医師とカウンセラー9件、医師のみ8件、カウンセラーのみ3件。原因は、失恋10件、親や配偶者の死3件、受験の失敗2件、勉学・研究7件、指導教員との関係2件、経済問題2件など。反応性(帰国後に回復した者)は、7件。

2)留学生のメンタルへルスの特殊性

 留学生と日本人学生との相違点に関して、本症例研究および大東ら3)の調査を基に以下に述べる。

  • 通訳が必要となることがある。
  • 母国における病歴等の情報入手が困難である。
  • 事例化の予防には配偶者・家族の存在が重要であり、単身で留学している者は事例化する傾向がある。また、日本人学生と比べて、留学生はアクセス可能な社会的リソース(情報を含む)が限定されているため、事態がより深刻化しやすい。
  • 精神科の受診率が低い。精神科医、カウンセラーなど専門家に支援を求める者が少ない。
  • 急激に精神症状が悪化する可能性がある。例えば、急性錯乱状態、自殺未遂などが急患例として事例化する。このことは、関係者も対応方法がわからず手をこまねいていたり、留学生が精神科医療機関への受診に抵抗感があることによって引き起こされると考えられる。
  • 留学生が精神的不調からくると思われる身体症状を訴える際には、メンタル面でも注意が必要である。心身症のように、ストレスが身体化されて表現される事例も少なくない。不眠や食欲不振などの身体症状があれば、いったん総合病院の内科を紹介し、それから精神科につなぐのも一つの方法である。
  • 多少とも学校生活に慣れて、現実を直視せざるを得ない時期や、帰国を目前にした時期にメンタルヘルス上の問題を引き起こすケースがある。
  • 病気の回復だけでなく、経済問題、自尊心保持(面子を傷つけない)などへの配慮も必要である。

 

2.メンタルヘルスの実態

はじめに/1.留学生のメンタルヘルスの特徴
2.メンタルヘルスの実態
3.異文化適応とメンタルヘルス/おわりに

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