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こころの健康シリーズ[ 国際化の進展とメンタルヘルス

No.7 外国人留学生のメンタルヘルス −実態と課題−

JAFSA(国際教育交流協議会)多文化間メンタルヘルス研究会代表 大橋敏子


2.メンタルヘルスの実態

 大橋4)は、メンタルヘルス状態評価尺度として、Zungの自己評価抑うつ性尺度SDS(Self-rating Depression Scale)を含む質問票を用いて留学生のメンタルヘルスの実態を把握した。そして、留学生の社会人口学的変数(性別、国、年齢、経済状況、滞在期間など)による比較を行い、それらの要因がどのようにメンタルヘルスに影響を与えているかを検証した。さらに、パス分析を中心とする多変量解析の手法を用いて、ストレスやソーシャルサポートがメンタルヘルスに与える影響について分析を行い、図に示したように3要素(ストレス・SDS・サポート)を軸とした3Sモデル(パス図)を考案した。

1)調査の概要

a.対象者

 国籍構成は、計53ヵ国293名(アジア14ヵ国206名、中近東3カ国7名、アフリカ10カ国19名、オセアニア2カ国2名、北米2カ国7名、ヨーロッパ16カ国36名、南米6カ国16名)となり、アジアからの留学生が7割を占める。平均年齢は29.3歳。性別は、男性が6割。婚姻状況は、未婚者と単身で来日している者が全体の4分の3。専門分野は、自然科学が約7割。在学段階は、大学院レベルの者が約9割。滞在期間は、2年以上の者が3分の2。日本語能力は、会話能力のある者が4分の3、「新聞が読める」レベルの読解能力の高い者が半数以上。経済状況は、国費(日本政府奨学金)留学生が約6割。宿舎状況は、外国人用宿舎に入居している者が約2割を占める。

b.調査方法

 日本語とバックトランスレーションを行った英語による質問票を使用し、面接に応じる者以外は無記名による郵送質問紙法をとった。回収した295部(回収率34.5%)から無効回答の多い2部を除いた293例を解析の対象とした。

 ストレス要因は、大橋が独自に作成した異文化生活におけるストレス尺度(16項目、4件法)を用いた。ソーシャルサポート利用頻度は、「サポートとなる人との接触」および「留学生を支援する団体の活動への参加」(9項目、4件法)で評定した。日本と本国における社会情緒的サポート要員は、12項目を設定した。

2)調査結果

a.パス分析

 パス分析を中心とする多変量解析の結果、次のことが明らかになった。

  • ストレスが、メンタルヘルス状態に最も影響する要因であり、抽出した5因子(人間関係、日本語・日本文化:文化受容、住居・経済、勉学・研究、および健康問題)をストレッサーとして感じている。
  • 女性の方がメンタルヘルスを阻害されやすい。
  • 年齢の低い者の方がメンタルへルスを阻害されやすい。
  • 未婚者や単身者の方がメンタルヘルスを阻害されやすい。配偶者(家族)の存在はメンタルへルスを良好に維持するために重要である。
  • 良好な経済状況によってストレスが軽減し、メンタルへルスが増進される。
  • サポート利用頻度はメンタルへルスと関係する。
  • 個人差はあるが、出身国によってストレス要因が異なり、メンタルヘルスに影響を与える。
  • 日本語能力が高くなれば、メンタルヘルスが良好になるとはいえない。

b.SDSの3因子

 1984年の国公立大学の調査では、SDS得点の合計点で要注意者を選別する例が見られた。しかし、北村ら5)は、SDSを合計点のみで評価するのは無意味で、今後は感情的(抑うつ気分)因子、認知的因子、身体的因子の3側面から評価すべきと論じている。

 本研究では、属性別に3側面から評価すると、次のようになった。

  • 女性が男性に比べて、感情的因子が有意に高い。
  • 非欧米出身者と欧米出身者を比較すると非欧米出身者の方が認知的、感情的、身体的因子がともに有意に高い。
  • 私費留学生が国費留学生に比べて、認知的、感情的因子が有意に高い。
  • 文系の留学生が理系の留学生に比べて、認知的因子が有意に高い。

 

3.異文化適応とメンタルヘルス/おわりに

はじめに/1.留学生のメンタルヘルスの特徴
2.メンタルヘルスの実態
3.異文化適応とメンタルヘルス/おわりに

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