● 小学三年生の太郎君は、ゴールデン・ウィークが過ぎる頃から、立ちくらみがひどく
なり、学校に遅刻するようになりました。
学校に行っても給食を食べることができず、早退するようになり、やがてまったく学校に行けなくなりました。
まわりの人々からは、「ずる休み」といわれますがどうしようもなく、次第に怒りっぽくなってきました。
母親に連れられて児童精神科医を訪れた太郎君は、とっても利発そうな子どもで すが、もじもじしていて、自分の考えをはっきりいえませんでした。
困っているのは事実なのですが、なにが原因なのか判らないようです。
そこで絵画療法を始めました。
家族や自宅の絵を描きながらセラピストと話し合っているうちに、弟にお母さんを取られるので はないかという不安を持っていることが明らかになってきました。
太郎君は、弟が幼稚園に行ってから登校し、弟が幼稚園から家に帰ってくる前に帰宅していようとしていたようです。
治療が進むにしたがい、自分の考えをはっきりいえるようになった太郎君は、四年 生になったのを機に元気に登校し始めました。
小学生となった弟と一緒に登校しています。
● 中学一年生の次郎君は、一学期の終わり頃から、朝、家を出ると三歩前進すると二歩 後退する奇妙な歩き方をするようになり、ついには学校に行けなくなってしまいました。
児童精神科医との面接の中で、次郎君はぽつりぽつり悩みを話し始めました。
入学直後、担任の先生から班学習についての説明があり、「互いに協力し合って頑張るように。
誰かが怠けるのは班の全員の責任だ」と厳しくいわれました。
宿題を完全にやっていかないと班の皆の迷惑になると考えた次郎君は、夜中まで机に向かっているようになりました。
やってもやっても不安で、ついにはからだが思うように動かなくなってしまったのです。
軽い安定剤を服薬して不安が弱まると、スムーズに歩けるようになり、無理をせずに適度に勉 強するようになりました。
● 高校三年生の花子さんは、二十歳になったら自殺しようと考え、学校には行かないで
家で映画のシナリオを書き始めました。
家庭の事情で、幼児期から親戚の家を転々とさせられていた花子さんは、どこに行 っても良い子として振舞ってきました。
ある時、他人の目ばかりを気にして、他人に気にいられるようにばかり振舞っている自分を醜 く感じるようになりました。
大好きなシナリオを書いて、自分が生きていたという証を作ってから、自分の意志を完全に通すことので きる自殺をしようと考えたのです。
聡明な花子さんとの面接は、治療者の方が教えられることが多く、考えさせられてしまうものでした。
アパートで独り暮しを始めた花子さんは、冷静に自分を見つめ直し始めたようで、いろいろな生き方のあることを受け入れるようになりました。
幸いに、どの子ども達もそれぞれにきっかけをつかみ、自分の人生を歩み出し始めました。
これからの生活の中で、それぞれの生き方を見い出してくれるでしょう。