ご挨拶日本精神衛生会とはご入会のご案内資料室本会の主な刊行物リンク集行事予定

こころの健康シリーズ] 成人の発達障害とメンタルヘルス

No 5 成人発達障害支援学会の歩みと展望
ー新時代の学会ー

昭和医科大学発達障害医療研究所 所長 太田晴久


2. 成人発達障害支援研究会・学会 年次大会の歴史

 2013年(平成25年)、成人期における発達障害支援の確立と発展を目的として、成人発達障害支援研究会が発足した。烏山病院で成人発達障害診療が開始された6年後のことである。昭和大学発達障害医療研究センター(後に研究所)が烏山病院内に設立されたことが、その直接的な契機となった。同センターの活動の大きな柱の一つに、発達障害に対するリハビリテーションの標準化を含む支援技法の開発が据えられていた。こうした実践と研究を体系化し、広く共有する場として、本研究会が設立された。

○第1回研究会 2013年11月

 第1回研究会は、昭和大学発達障害医療研究センター開所記念式典と併せて烏山病院にて開催された。シンポジウム「成人発達障害支援の現状と課題」では、全国各地の実践報告や就労当事者の経験、成人期の発達障害の家族会である「烏山東風の会」の活動、厚生労働省の取り組みなどが紹介され、多角的な視点から成人期支援の現状が共有された。この研究会の設立は社会的関心を集め、朝日新聞において記事として配信されている。

 また、加藤進昌先生による基調講演に加え、研究センターのもう一つの重要な柱である脳画像研究を中心とする生物学的アプローチに関してATRの川人光男先生による特別講演が行われた。これらの成果を背景に、同センターは文部科学省より共同利用・共同研究拠点に認可され、2014年4月より発達障害医療研究所として再編された。また、この頃から当事者や家族の講演が自然に取り入れられていた点は、医療モデルにとどまらず当事者の経験を重視する支援文化がすでに形成されていたことを示すものである。

○第2回研究会 2014年11月

 デイケアで開発された発達障害プログラムのワークショップは本研究会で初めて実施され、その後のプログラム展開の基盤となる重要な試みであった。

 開催された当時の上條講堂は建て替えられた現在とは異なり歴史を感じさせる施設であったが、比較的低コストで大規模に利用可能であり、限られた資源の中で運営される本研究会にとって貴重な会場であった。

 プログラムでは、厚生労働省の日詰正文氏による行政的視点の講演、長谷川壽一先生による進化心理学からの考察、市川宏伸先生による児童精神科の視点など、多領域にわたる発表が行われた。これらは発達障害を医学・心理学・行政の統合的視点から理解しようとする試みであった。

 また、リーフレットには「支援手法の明確化と質の向上・啓発」を目指す旨が記されており、デイケアプログラムの標準化を志向する当時の方向性が示されていた。

○第3回研究会 2015年9月

 第3回研究会からはテーマが設定され、「発達障害と就労」が掲げられた。成人期において就労が重要な課題である点は現在も変わらないが、当時は発達障害に対する障害者就労の取り組みが本格化したばかりであり、当事者・支援者・企業のいずれも試行錯誤の段階にあった。

 本研究会では、特例子会社や大学相談室に加え、昭和大学烏山病院における事務職員としての障害者雇用の実践が紹介された。当事者による経験報告や病院側の取り組みの報告は、現場に根ざした知見として強い印象を残した。

 精神科病院が雇用主として発達障害のある人の障害者就労の実践を発信した点は当時としては先駆的であり、医療と就労を結びつける重要な試みであった。雇用された当事者の多くはデイケア参加者であり、デイケアスタッフによる継続的な支援体制が、勤務先に安心感をもたらしていたと考えられる。この経験は、昭和医科大学関連病院での障害者雇用の拡大につながっただけでなく、後に病院デイケアスタッフやピアサポーターとして当事者を雇用する実践へと発展していった。また、第2回に続きデイケアプログラムのワークショップも実施され、支援手法の具体化と普及に向けた取り組みが継続された。

○第4回研究会 2016年11月

 第4回研究会では「発達障害と教育」がテーマとして掲げられた。シンポジウムには文部科学省の田中祐一氏、厚生労働省の日詰正文氏らが登壇し、児童期から成人期への移行支援の重要性が共有された。これにより、教育・医療・福祉の連携の必要性が一層強く認識されるようになった。

 また、公益財団法人神経研究所附属晴和病院による発達障害学生支援プログラムのワークショップが行われ、高等教育と医療の協働による支援の具体像が提示された。大学という新たなライフステージに対して医療が積極的に関与する取り組みは、分断されがちであった大学内支援と医療とを結びつける重要な試みであった。

 こうした活動は、その後のAMED受託研究による大学生支援プログラムの開発や、学生支援マニュアル・ワークブックの刊行へとつながる流れの端緒となった。

○第5回研究会 2017年10月【翌日 国際自閉症カンファレンス東京2017】

 第5回研究会では、発達障害のショートケアプログラムの効果検証を目的としたAMED受託研究の取り組みが報告された。この成果は、翌2018年度からの診療報酬加算の実現に向けた重要なエビデンスとして活用され、臨床実装の全国化の契機となった。

 また、翌日には東京都の一橋講堂において、神尾陽子先生を大会委員長として、国際自閉症カンファレンス東京2017「自閉症研究の今―社会の課題に挑戦する―」が開催された。本カンファレンスは、研究会と実質的に一体の企画として位置づけられており、国内で積み重ねてきた議論を国際的な文脈へと広げる試みでもあった。

 同カンファレンスでは、Andy Shih(Autism Speaks)、David Amaral(MIND Institute)、Christopher Gillberg(University of Gothenburg)、Susan Shur-Fen Gau(National Taiwan University)、Yeni Kim(National Center for Mental Health)ら、国際的に著名な研究者による招待講演が行われ、基礎研究から社会実装まで幅広い議論が展開された。

 余談ではあるが、筆者は2012年から2年間、MIND InstituteにおいてDavid Amaralの指導のもと脳画像研究に従事した。同研究所では、生物学的研究と臨床研究が同一フィールドの中で有機的に展開されていた点が印象的であった。昭和医科大学発達障害医療研究所および成人発達障害支援学会においても、「臨床と研究」「専門職と当事者」を分断せず結びつける視点は、一貫した基盤となっている。

○第6回年次大会(札幌大会:学会化初年度) 2018年10月

 第6回年次大会は、初めて昭和大学以外で開催され、さっぽろ駅前クリニック日興ビル分院にて実施された。「こどもから大人までの切れ目のない支援に向けて」をテーマに、児童期から成人期までの生涯支援について、多職種・多機関連携のもとで議論が行われた。

 成人期発達障害への社会的関心の高まりを背景に、正しい知識を欲する世の中のニーズに応える内容であったといえる。

 本大会を契機として、研究会は「成人発達障害支援学会」へと発展し、支援手法の確立と普及を担う新たな段階へと移行した。診療報酬加算の実現を受け、成人発達障害専門プログラムの研修会が初めて開催され、広がりをみせる専門プログラムの質の担保を担う体制が整えられた。

○第7回年次大会(名古屋大会) 2019年10月

 名古屋大会は、発達障害の概念が拡がり、家庭・学校・地域といった多様な場面での支援が求められる中、「成人発達支援の新しい展開─家庭・学校・地域社会─」がテーマとして掲げられた。

 大会では、学生支援、トラウマ、ひきこもりなどをめぐるシンポジウムが行われ、発達障害を医療の枠にとどめず生活支援全体の文脈で捉える議論が深められた。

 また、新聞やNHK(クローズアップ現代)を含むメディア取材も入り、成人期発達障害への社会的関心の高まりが強く示された。基礎的理解から具体的課題へと議論が深化し、社会的課題として広く認識されつつあった時期を象徴する大会であった。

○第8回年次大会(滋賀大会) 2021年11月

 滋賀大会は、新型コロナウイルス感染症の影響により1年延期ののち、2021年にオンラインを併用したハイブリッド形式で実施された。「発達障害者の多面性とその多角的支援」をテーマに、多様な精神症状の併存への対応、とくに依存症や睡眠障害を中心とした講演・シンポジウムで構成された。

 また、多角的支援のもと、医療・福祉・教育の連携が重視され、就労、学生、家族支援を含めた包括的支援のあり方が検討された。感染対策のため、参加者数は制限されたものの、プログラム研修は例年通りに実施された。

○第9回年次大会(岡山大会) 2022年12月

 岡山大会のテーマ「共感する・つなぐ・伴走する」は、英国自閉症協会のSPELL原則を踏まえ、成人発達障害支援における基本的姿勢として掲げられた。

 本大会では、当事者・家族への共感、多領域連携、伴走支援の重要性が強調され、これまでの実践を背景に支援理念が明確に言語化された点に特徴がある。

 シンポジウムでは、強度行動障害や地域ネットワークに加え、AMED受託研究である「発達障害と親亡き後」をテーマとした企画、および厚労科研を受けて開発されたピアサポートプログラムのワークショップが実施された。さらに、研究活動の一環として訪問した熊本県の自助会の活動も紹介され、当事者主体の取り組みと専門職による支援をいかに繋げていくかについて議論された。

○第10回年次大会(横浜大会) 2023年10月

 横浜大会のテーマは「こどもと大人、支援者と当事者をつなぐ 〜ニューロダイバーシティを見据えて〜」であった。横浜市の小児領域における先進的取り組みを背景に、児童期から成人期への移行(トランジション)が重要な論点として取り上げられた。

 横浜大会においては、当事者活動の広がりとともに支援者と当事者の関係性の変化が指摘され、ニューロダイバーシティの視点が共有された点に大きな特徴があるだろう。本大会では市民公開講座で同概念が扱われるとともに、発達障害に対するスティグマの問題を主題としたシンポジウムも開催された。

○第11回年次大会(大阪大会)2024年9月

 大阪大会のテーマは「病態理解に基づく成人発達障害の治療と支援」であった。成人期発達障害への関心が高まる中、ASD、ADHD、知的能力障害、学習障害に加え、うつ病や不眠症などの精神疾患との関連が注目され、病態理解に基づく治療と支援の重要性が強調された。

 また、当事者・医療者・支援者の知見を統合し、研究と実践の双方から課題解決を目指す姿勢が共有された。

 ポスター発表では、研究報告に加え、日常診療や支援の工夫・課題といった実践報告が広く募集された。大阪大会の特徴は、生物学的研究を中心とした先端的な知見と、現場の日常的な支援実践や自助活動の双方が同じ場で共有され、相互に学び合う機会が生まれていた点にあるだろう。

○第12回年次大会(東京大会)2025年10月

 東京大会のテーマは「Care with Peers 〜生涯にわたる支援〜」であった。発達障害の特性は対人関係や集団場面で顕在化しやすく、個別診療のみでは限界があるとの認識のもと、自己理解の深化や社会的孤立への対応として当事者同士の支え合いであるピアサポートの重要性が共有された。

 本大会では、デイケアにおけるリハビリテーションや自助活動など、当事者が主体的に参加する支援を軸に、個別から集団、さらに社会へと広がる支援モデルが検討された。また、思春期から成人期、親亡き後、中高年期に至るまでのライフステージを見据え、途切れのない支援の必要性が議論された。加えて、全国発達デイケアの集い、ワールドカフェ、イラスト公募などの参加型プログラムや、ADHD当事者である小説家の柴崎友香氏による公開講座も実施された。

 本大会は、当事者と支援者がともに支援に関わる「Care with Peers」の視点を共有し、成人発達障害支援学会の原点を改めて見つめ直す機会となった。同時に、発達障害におけるピアサポートの意義や可能性について発展的な議論が行われ、成人発達障害支援の新たな方向性を示す大会となった。

 

3. おわりに

1. はじめに
2. 成人発達障害支援研究会・学会 年次大会の歴史
3. おわりに

ご挨拶 | 日本精神衛生会とは | ご入会の案内 | 資料室 | 本会の主な刊行物 | リンク集 | 行事予定