中部学院大学大学院教授 吉川武彦 はじめに国家公務員の管理監督や生活福祉に関する総合官庁である人事院は、2004(平成16)年3月に「職員の心の健康づくりのための指針」を示した。これは1987(昭和62)年7月に同じく人事院が示した「ガイドラインー職場におけるメンタルヘルス対策」を新たにしたもので、ほぼ1年間の検討結果を踏まえたものである。 先の87年版は加藤正明(東京医科大学名誉教授、元国立精神・神経センター精神保健研究所所長)を座長とする専門家会議が検討した結果作成されたものであった。その成果は発出された通知のほか「職場におけるメンタルヘルス」と題する一書となって刊行され、国家公務員のみならずあらゆる職場におけるメンタルヘルス関連のバイブルとなった。 とはいえメンタルヘルスに関する正当な理解が深まっていたとは言えないときであったので、職場や地域におけるメンタルヘルス活動とは精神障害者の早期発見といった趣で受け止められていた。こうした時代背景のなかにあって、本書はその総論の第1章「職場におけるメンタルヘルス対策」の第1節「メンタルヘルス対策のあり方」の第1項が「健康な精神のすがたとは」に始まっていることは極めて特異的である。さらにその第2項でメンタルヘルス対策の目標は「精神面の健康管理も、障害の早期発見、早期治療だけを目的とするものでなく、仕事の過重、不快な職場環境、人間関係の葛藤等の職場のストレス要因を除去し、職員が精神的に不健康な状態に陥らないように予防し、さらに積極的にメンタルヘルスを高め、より健康な精神状態をつくる」ことを目指しているとも喝破した。このことは極めて今日的であり輝きを失っていない。 はじめに |
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