東京都教職員互助会三楽病院・教職員総合健康センター 溝口るり子 イラスト 桃井ももこ <はじめに>教師の心身の健康状態は児童生徒の指導・教育と密接に関係している。教職員の職域病院にある精神神経科で約10年前に実施した初診者対象の調査では、教師は一般企業勤務者に比較して業務関連ストレスが高く、ストレス内容では児童生徒の指導に関する悩みが最多で、同僚や保護者関係を含めると7割以上が職務に関連する人間関係に起因しており、最後の点については5年前の調査と同様の結果であったという。この結果は「重層的な人間関係」に囲まれた教職の大きな特性を反映していると考えられる。当時から校内暴力、不登校やいじめ、教育改革や学校現場の変化などが指摘されていたが、その後も「小1プロブレム」「中1ギャップ」などが文部科学省でも取り上げられ、最近の新聞ではOECDが日本の教師の事務作業の多さ・多忙を指摘(9.14)、学校管理職希望者の減少(10.26)や新規採用教員の離職者の増加(11.8)など、学校現場や教師の厳しい状況が報道されている。文部科学省の発表によれば、全国公立学校教職員の精神性疾患による休職者数の漸増が続いており、2009年度は全国で5458人の教師が精神性疾患で休職し、全休職者の63%と過半数を大幅に上回り、10年前の3倍以上に達しているとのことである。 地域や学校ごとの違いが大きく、状況の捉え方の個人差もあり、教師のメンタルヘルスと学校現場の関係は簡単には論じることはできない。が、教師のメンタルヘルスに関係すると考えられる学校現場の幾つかの側面を紹介してみたい。 <学校現場の多忙>以下は様々な場面で語られた、教師に共通すると思われる仕事である。
以上は教師から聞いた範囲での業務例であるが、日常の授業・指導と並行して年間、学期ごとの幾種もの業務が行われており、しかも準備やまとめといった前後の業務が付随してある。「よくこんなにこなしている」と、教師自身が改めて感心するほど多種多様である。「実際に授業している時間は全体の4分の1程度かもしれない、教室で授業している時間が一番ホッとするくらい」「もっと子供たちと接する、教師本来の仕事がしたい」という発言は、新人からベテランの教師まで頻繁に聞かれる。「できる」「頼りになる」教師ほど仕事が集中しやすいのは、他職種とも共通しよう。なお、今回は触れないが副校長といった管理職の負担・責任、多忙は一般教員以上である。事件事故、特に東日本大震災のような大規模災害時の管理職の職務状況は過酷なものになる可能性がある。 「教師には夏休みがあるではないか」というのは誤解で、児童生徒が夏休みなどの長期休業中も勤務し、プール指導や補習、学期中にできない仕事や授業準備、他での研修を受けている。
1.はじめに〜学校現場の多忙 |
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