埼玉大学教育学部 教育心理カウンセリング講座 坂西友秀 イラスト 谷口 智子 昔からいじめはあった「いじめは昔からあった」とよくいわれる。いじめの質が変わったと指摘され始めてすでに30年以上になる。被害者の子どもが自殺に追いやられる最悪の事態はなくなっていない。文部科学省の調べでは(2009年度)、児童生徒の自殺の主たる原因の一つとして「いじめ」があげられ、該当者は2名いる。「いじめはいつの時代でも子どもにつきものだ」といって静観できるほど子どもの日常は、平穏ではない。登校拒否・不登校の子、虐待される子など、子どもをめぐる問題は山積し、増加の傾向にある。原因はさまざまに追求されているが、明らかにされているわけではない。最近では、情報技術(IT)の急激な発達により、子どもを取り巻く環境は、短期間の内に一変し、人間関係のあり方にも大きな影響を及ぼしている。ツールは、PHS、携帯電話からスマートフォンへ、人間関係は対面的な関係からインターネットを介した関係へ、新たな世界が展開され、日々「進化」している。それにともなって、「ネットいじめ」、出会い系サイトの被害、児童ポルノ被害、など新たな形態のいじめ・被害も生まれている。 いじめは、日本の子どもに限られた現象だと考える人も多かったが、海外でも類似のいじめが発生している。北欧で行われた大規模な調査研究は、いじめが各国に共通する問題であることを明らかにした。有効な対応策、カリキュラムも検討されてきた。 いじめのとらえ方は、変化してきた。文部科学省のいじめの定義は、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的苦痛を感じているもの」である。一方、森田は次のように定義している。「いじめとは、同一集団内の相互作用過程において優位に立つ一方が、意識的に、あるいは集合的に他方に対して精神的・身体的苦痛を与えることである」。文部科学省の定義は、被害者の受け止め方に視点が置かれている。ここでは、森田の定義に沿って、「いじめ」を考えることにする。 いじめは減った?いじめは、小学校、中学校、高校と、学年が進むにつれ発生件数は減少する。いじめ調査が始まった初期の頃からのいじめ件数を見てみよう。 1985年の小・中学校、高校のいじめの発生件数は、96,457、52,891、5,718である。現在、いじめの発生件数は、いずれの学校段階でも減少している。少子化が進む中、子どもの数は年を追って急速に減ってる。1990年度の小学生(1年生から6年生合計)は、9,37,3295人であったが、2010年度は6,993,438にまで減少している。子どもの数が少なくなれば、それだけ全体としての子ども同士の関わりは少なくなる。いじめの発生件数が少なくなったのか否かを明らかにするには、子ども総数を反映させた指標を工夫すべきであろう。図1は、いじめ件数を子ども総数で除した「発生率」である。各年度の「発生率」を見ると、調査開始初期の1985年の発生率は高い。その後、1986年、1987年は大きく減少している。2006年度以降現在までの間、発生率は若干上昇傾向を示し、中学校で顕著である。
2.どのようにしていじめるの?〜いじめっ子・いじめられっ子は決まってる? 1.昔からいじめはあった〜いじめは減った? |
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