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こころの健康シリーズZ 21世紀のメンタルへルス

No.2 多世代型シェアの試み
−コレクティブハウスとホームシェア−

日本大学文理学部社会学科  久保田裕之


世代間ホームシェアの試み:高齢者の居宅を利用した若者との共同生活

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 これに対して、EU等で注目されている既存の住宅を利用したより小規模なものに「ホムシェア」と呼ばれる高齢者と若者の共住形態がある。ホームシェアとは、高齢者の居宅に、一定の条件のもとで学生や若者を住まわせ共同生活を行うことで、一人暮らしの不便や孤独といった高齢者の特別なニーズの一部を、居住内部の助け合いによって充足するプログラムである。たとえば、都市部の独居高齢者の自宅の空き部屋に、非営利事業者による募集・マッチングを経た大学生を無償ないし格安で住まわせるようなケースでは、高齢者側がベッド・電気スタンド・勉強机と倚子を備えた個室を提供する代わりに、大学生は月曜日から金曜日までの平日は22時半までに帰宅して見守りを行ったり、合意した範囲で日々の雑用を手伝ったりすることになる。

 現在のEUにおけるホームシェアの原型は、1996年ごろのスペイン・カタルーニャ地方にはじまると言われている。もともと、アングロサクソン諸国とは異なり、家族主義が強く離家規範の弱いスペインにおいて、大都市で配偶者と死別・離別して一人で暮らす独居高齢者の孤立や孤独と、地方から都市部の大学に進学して生活を維持することの大きな負担を、一度に解決するための方策として考案された。初年度にテストケースとして20組が誕生したあと、徐々に規模を拡大して2010年にはスペイン全国で延べ360組にまで拡大した。当初は、高齢者の孤独・不安と若者の居住福祉のための施策であったが、世代を超えた連帯感や敬意、祖父母と孫のような家族的な絆の涵養に役立つことが認識されるようになる。

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 EUにおけるホームシェア事業の転機は、2003年にヨーロッパを襲った記録的な熱波であると言われている。ヨーロッパ全土で5万2000人以上が命を落としたといわれるこの年の8月に、フランスでは政府の対応のまずさもあり1万4000人以上が亡くなり、中でも暑さに慣れていない多くの高齢者が熱中症と激しい脱水症状によって命を落とすことになった。特に、緊急時に異常を訴えることもままならない独居高齢者に被害が集中したこともあり、もともと個人主義の強いフランス人の間でもこうした独居高齢者の問題に多くの関心を引きつけることになった。現在、フランスのパリを中心に展開しているホームシェア事業者のうち、「アンサンブル・ドゥ・ジェネラシオン」は2005年に始まった若いNPOでありながら、2012年時点ではフランス全土で20カ所の拠点を持ち、年間250組、これまでで延べ1000組以上のホームシェアを成立させている。

 日本でも、2006年代に世田谷区でホームシェアを推進する団体が誕生して以来、全国で同時多発的に同様の試みが行われるようになっているが、大きく数を増やすには至っていない。たとえば、世田谷区のNPO法人「ハートウォーミングハウス」(代表:園原一代)を含め、日本全国では年に数件、テストケースを含めて延べ十数件程度に留まっている。この原因は様々だが、スペインやフランスの場合と同様にホームシェアに適したある程度の広さで若者や学生を家に招き入れようとする高齢者が少ないことと、日本特有なものとしては安くても高齢者と住もうという学生側もそれほど数が多くないことなどが挙げられる。

おわりに

 以上で見てきたように、家族でも恋人でもない他人との共住は、同世代型のシェアを足がかりにようやく花開きつつある段階であり、多世代型のシェアへの道のりは未だ遠いというのが現状である。とはいえ、コレクティブハウスの試みにせよ、ホームシェアの試みにせよ、着実に実績とノウハウを蓄積しながら存在感を増しており、その社会的意義を高めつつある。今後、このような新しい多世代型の支え合いの場が十分な信頼に足るものとして制度化されていくかどうかは、とりわけ非営利事業者に頼ることの多いこうした新しい試みに対する、行政を通じた積極的な支援にかかっているだろう。

《参考文献》
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西條 節子,2000,『高齢者グループリビング「COCO湘南台」‐‐10人10色の虹のマーチ』生活思想社.
NPO法人ハートウォーミングハウス,2007,『在宅ターミナルケアのある暮らし 続・高齢者グループリビングCOCO湘南台』生活思想社.

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1.はじめに:世代を超えて共に生きる
2.近年の共同生活への眼差し:シェアハウスとグループリビング
3.多世代型コレクティブハウスの試み:合理的で民主的な協同生活の運営
4.世代間ホームシェアの試み:高齢者の居宅を利用した若者との共同生活/おわりに

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