東邦大学医学部 端詰勝敬 はじめに私が学童だった頃には、ボランティア活動や海外への支援という発想はほとんどなく、そういう活動を耳にする機会も少なかったと記憶している。しかし、時代も進み、近年は中学生や高校生の時代からボランティア活動への参加が推奨されるようになり、日本人のボランティアへの意識が高まったように感じている。また、東日本大震災など大きな災害時には、多くのボランティアが率先して活動をおこなっていることが報道されている。こうした動きは国内だけでなく、独立行政法人国際協力機構(JICA)をはじめ一部のNGO団体等は、世界中にボランティアを派遣している。筆者は、JICAの顧問医として海外で活動をする青年ボランティア、シニアボランティアのみならず、技術協力専門家、JICA職員などのメンタルヘルスに関する支援をおこなってきた。海外で国際協力に参画する人材のメンタルヘルスにかかわるなかで、現地の協力活動に参加する人々の意識の高さと、その活動を後方支援する事務側の労力に敬意を払うとともに、開発途上国において協力活動を続けることの難しさ、精神的な健康面に与えるリスクの大きさも実感するようになった。ここでは、これまでの経験をもとに、国際協力で海外に行く人のメンタルヘルスについて述べてみたい。 1.国際協力で海外に行く人の概況海外、特に開発途上国での国際協力活動の中核を担うJICA1)において、2019年度の国際協力人材の派遣者実績、及び主な活動目的は以下の通りとなっている。(コロナ禍の影響を受ける前の規模感をつかむため、ここでは2019年度の実績を引用する)。 ・技術協力専門家派遣:新規派遣人数8012名⇒開発途上国の協力の現場に日本人専門家を派遣して、相手国の行政官や技術者(カウンターパート)に必要な技術や知識を伝えるとともに、彼らと協働して現地適合技術や制度の開発、啓発や普及などをおこなう。 ・青年海外協力隊等、ボランティア派遣:新規派遣人数1151名⇒JICAボランティア派遣事業は、国際協力の志を持った方々を開発途上国に派遣し、現地の人々とともに生活し、異なる文化・習慣に溶け込みながら、草の根レベルで途上国が抱える課題の解決に貢献する事業。草の根レベルであっても、その活動は途上国の政府や政府機関、あるいは公益性を追求する非政府機関の活動となる点が特徴。 ・調査団員派遣:新規派遣人数5257名⇒上記の専門家やボランティアの派遣事業のみならず、無償資金協力等も含めた各種の協力事業を実施するにあたっては、事業を開始する前に現地で関連情報を収集したり、協力内容や枠組みについて相手国政府等と協議をおこなう必要があり、また事業の途中段階や終了時に協力の成果を確認することも必要となるため、必要に応じ適時に「調査団」を派遣している。
はじめに/1.国際協力で海外に行く人の概況 |
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