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こころの健康シリーズ[ 国際化の進展とメンタルヘルス

No.9 国際協力で海外に行く人が遭遇するメンタルヘルスの問題

東邦大学医学部 端詰勝敬


3.国際協力で海外に行く人のメンタル課題

 海外、特に開発途上国で国際協力活動をおこなう際、多様なストレスに向き合うことはこれまで示した通りであるが、メンタル事例として相談され、メンタル関連の病状のために療養に至ることがある。

 実際に、メンタル性の疾患やストレス関連疾患が発現する際、統計的な裏付けは無いものの経験則的に「どのような疾患が多いか」について思いつくところを表2に示した。

表2

 不安障害の中では、過換気発作に始まり、動悸、息苦しさ、発汗、めまいなどを繰り返すパニック障害へと発展することもある。パニック障害では、飛行機、電車やバスなどの交通機関への恐怖(乗り物恐怖)をともなうことが多い。そうなると、日本に帰国しての精神的なケアがひじょうに困難になるので、重症化する前の早期対応が求められる。

 うつ病と適応障害に関しては、本質的な部分は似ている。適応障害とは、暴露されているストレス状況のために身体症状(頭痛、吐き気、めまい、食欲不振、全身倦怠感など特異的な症状はない)または精神症状(うつ状態、不安症状、焦燥感など)を呈するものであり、海外で支援活動をしている方々の中でも認められやすい病態という印象がある。適応上の問題であっても、うつ病の診断基準(2週間以上続く毎日の抑うつ気分、悲哀感、興味の喪失など)を満たすようであれば、うつ病として評価がされる。適応障害では、本人が抱えているストレス環境からの回避が必要となるが、場合によっては日本へ帰国しないと環境を変えられないことも多い。海外でのストレス環境で悩み、うつ状態を呈していた方が休暇をとって日本に帰国したところ、成田に着いたとたんに気分が晴れる場合もある。

 海外での生活において、治安状況は日本よりも明らかに悪い。日本では安全であるはずの場所で犯罪等に巻き込まれることもありうる。そのため、急性ストレス障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)も起こりうる。テロなどに遭遇して、無傷であっても、その後に恐怖感、不安感、睡眠障害などに襲われることが一般的な経過である。しかし、被害直後には大きな症状もなく、平穏な表情であっても、数日または2週間くらい経過したのちに、ふとしたきっかけ(その場に近づくなど)で急激に症状が出現することもある。

 摂食障害については、大きく神経性やせ症と神経性過食症にわかれ、ほとんどの患者は女性である。海外で主に認められやすいのは過食の方である。ストレスを発散する方法は日本ほどバリエーションが多くなく、食欲を満たす方向に進むと過食につながる(男性の場合には過食よりもアルコールの過剰摂取につながりやすい)。神経性やせ症では、短期間の体重減少や極端な食事内容で周囲が気づきやすいが、神経性過食症の場合には周囲に気づかれないように過食をするため、発見が遅れることが多い。ケースによっては、過食した後に自分の指を使って吐いたり、市販の下剤を常用量の数倍から数十倍まで乱用することもある。医療関係の方が患者の場合には、下剤の他に利尿薬が使われることもある。

 また、津久井は海外邦人のメンタルヘルス不調の特徴をいくつか挙げている4)が、その中で、

 @低い言語能力や不安定な社会的基盤の問題
 A精神疾患の既往
 B発症時における社会的孤立
 C不適応の初期サインとしての身体症状の重要性
 D帰国により得られる比較的良好な予後

の5つは国際協力人材の特徴としても共通している。感覚的には、国際協力人材で一番多いメンタル疾患は、うつ病ではなくうつ状態であると思われ、うつ状態の背景にあるのは、環境への不適応からくる適応障害であると考えられる。

 

4.メンタル事例の予防と対応/おわりに

はじめに/1.国際協力で海外に行く人の概況
2.国際協力活動でのストレス
3.国際協力で海外に行く人のメンタル課題
4.メンタル事例の予防と対応/おわりに

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