長野大学客員教授 小泉典章 1.はじめに2011年3月12日午前3時59分、長野県北部を震源とする強い地震(マグニチュード6.7、震度6強)が発生し、栄村は甚大な被害に見舞われた。集落の絆が強く、また消防団の能力も高く、3月13日の午後には村民全員の安否確認ができている。前日の東日本大震災のため、他県からの支援は求められないことを前提に、長野県精神保健福祉センター(以下、当センター)では北信保健福祉事務所(以下、保健所)や栄村役場とも連携し、地震直後から心のケア活動を開始した。 昨年、亡くなられた中井久夫先生はエッセイの中で、阪神淡路大震災の復興後も神戸の賑わいはいまだ戻っていないとよく書かれていた。災害後、それ以前の活気を取り戻すことは至難の業である。 内閣府によれば、「Build Back Better(より良い復興)」とは、2015年3月に宮城県仙台市で開催された「第3回国連防災世界会議」の成果である「仙台防災枠組」の中に示された、災害復興段階の災害予防策を実施するための考え方である。 長野県北部地震後、12年間経過した現在、支援の実際やその後の経過等を含め、高齢化の進んだ山間部の村に起きた地震災害の復興について、Build Back Betterの観点を踏まえ考えてみたい。
2.栄村の現況栄村は長野県の最北端に位置し、新潟県と群馬県に隣接している。山々に囲まれ、積雪量が日本一(1945年2月12日・7m85cm)を記録したこともある日本有数の豪雪地である。村の北部には千曲川(新潟県側に入ると信濃川)が流れ、南部には苗場山、鳥甲山、佐武流山などの山々がそびえ、村内各地に温泉が湧き出る自然豊かな土地である。 朝日新聞によれば、2004年の中越地震で旧・山古志村は約2200人(栄村と同規模)の住民が全村避難し、その後全村帰村を果たしたものの、2023年現在の人口は半分以下の800人以下に減少している。35年間続く「山古志の火まつり」も2023年3月で休止されたが、最近デジタル村民を募集し、村おこしを新たに図る試みも始められた。栄村の人口は2011年当時2279人で、地震後は、人口の激減が危惧されたが、2023年統計では1631人で、山古志村ほどは減少していない。
1.はじめに/2.栄村の現況 |
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