長野大学客員教授 小泉典章 7.レジリエンスの視点からレジリエンスとは、物理学で反発力を意味し、ストレスの対語ともいえる。最近の心理学ではストレスからの回復力、抵抗力を表す概念(自然回復力)とされる。心的外傷後成長(Post-Traumatic Growth;PTG)もレジリエンスが背景にあると考えられている。 PTGについてのモノグラフ(参考文献)の、宅香菜子先生の解説を参考にすれば、PTGは5つの共通因子がまとめられるという。 @ 人間としての強さの自覚 A 新たな可能性 B 人間関係における成長 C 人生に対する感謝の気持ち D 個人の存在を超えた力への畏敬の念(スピリチュアルな変容) 御嶽山噴火災害を振り返り、犠牲者のご遺族のグリーフワークを考えると、安全な山と信じ切っていたにもかかわらず、突然、何の準備もないまま死に直面せざるを得なかった無念さから、想定外の噴火災害への怒りや愛するご家族を失ったことへの喪失感が続く方、気持を整理して新たなスタートを切ろうとしている方など、中長期的な心のケアが極めて大切な問題になっていると痛切に感ずる。 御嶽山噴火災害の翌年の行方不明者の捜索では、遭難したご夫婦のご主人の御遺体が、前年みつかった奥さんの御遺体の近くで発見された。そのご子息は前年は現場には来られなかったが、翌年に父親が発見された現場に来られている。両親の死後、伯父さんに引き取られているが、高校卒業後の進路は就職を考えていたが、伯父さんに大学進学を勧められ、困難な悲しみ、痛みを超え新たなスタートを切って、技術者を目指して大学で勉強し、今は会社に就職して頑張っている。このケースをPTGではないかと思うのは的はずれではないのではないか。 サイコロジカル・ファーストエイド(Psychological First Aid;PFA;心理的応急処置)は被災者を支援するために、急性期に医療関係者以外にも用いることができるように作成されている。PFAの初期介入で、中長期的に心的外傷後ストレス障害(Post-Traumatic Stress Disorder:PTSD)を防ぐような、被災者の心理的ストレスを増悪させない回復の促進が期待できる。そのひとつの帰結がPTGかもしれない。
8.おわりにPost-Traumatic Growthは個人のレベルのレジリエンスとしたら、Build Back Betterは集団レベルのそれだといえるかもしれない。両者の概念の整理もこれからの課題であると思われるが、筆者のこれまでの災害支援の体験から幾分かの考察を述べさせていただいた。人間には自然回復力が内在して備わっており、時間の経過と人との関わりの中でPTGが成立すると確信しており、この領域のさらなる展開がなされることを期待している。最後に、内在するレジリエンスの力で、突然の理不尽な犯罪被害に遭遇した方が、いつの日か新たな生きがいを見いだせるようになることを切に祈っている。
参考文献 本稿をまとめるにあたり、長野県北部地震の心のケア活動を担っていただいた多くの皆様に、心より感謝を申し上げます。
1.はじめに/2.栄村の現況 |
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