国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 3.支援者自身のケア先の「見る(Look)」のところで危機に対するストレス反応について触れたが、そのひとつの現れ方として、被災者の怒りや苛立ちがある。怒りや苛立ちは、支援が行き届いていないという不満や避難所の管理が十分にできていないといった要望の形として、激しい感情と共に支援者に向けられることも少なくない。支援者に直接的な落ち度がなくとも、避難生活のストレスから怒りを抑えられなくなったり、他者を助けられなかった後悔の反動として、被災者の不満の代弁者となる役割を自ら担っている場合も考えられる。しかしストレス反応のひとつであるとはいえ、怒りを向けられるというのは間違いなく支援者にとって大きなストレスとなりうる。特に地元の支援者である場合、自分自身や家族が被災しながらも、地元のためにと使命感を持って活動を続けていることも多い。支援者が心身ともに疲弊していくことで、本来の業務に復帰できなくなってしまったり、日常生活に支障が出てしまったりすることは本末転倒であり、支援体制自体も維持が危ぶまれることになる。そのため、支援者のセルフケアやそれを支えるための組織によるサポートは、支援全体においても非常に重要視されるべきと考えられる。 支援中は食事や睡眠、定期的な休息を取るようにし、逆にカフェインやアルコール、ニコチンの摂りすぎには注意を払うべきである。疲れを取るために、飲み慣れない量のコーヒーや紅茶類を摂取することは不安感を惹起する恐れがある。常飲するのはカフェインなしの飲み物にしてみたり、1日の摂取量を決めることや睡眠の妨げにならないようタイミングを見計らうなど工夫することができる。日頃から自分のカフェイン耐性や水と併飲することによる効果など、飲み方や種類について知っておくことも役立つ。また、呼吸法や軽い体操など、自分がリラックスできる方法を日常的に身につけておくことも、いざという時に平時の落ち着きを取り戻すきっかけになりうる。 セルフケアは支援中だけでなく、支援前や支援後にも意識することによって、より支援者自身のこころを守りうる助けとなる。支援前は、現地の状況や支援現場での自分の役割、業務範囲や活動期間を把握し、自身の健康状態や家族の問題などを含め、実際に支援に赴ける状態かどうかを確認する。また支援後には、本務に戻る前に休息を取ることや、自分自身や仲間と活動を振り返る時間をとることで、支援に区切りをつけることができる。 しかし支援後1ヵ月が過ぎても、支援中の出来事が頭にこびりついて眠れない日が続いたり、そのために過剰な飲酒や睡眠薬の摂取などがある場合には専門家に相談することも検討する必要がある。
はじめに/1.サイコロジカル・ファーストエイド(PFA) |
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