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No.8 子ども虐待と家族支援

東京都児童相談センター治療指導課長 犬塚峰子


虐待を生じさせる家族の要因

 子どもに有害な影響を与えてしまうほどの子育てのひずみ(虐待)は、単一の要因から生じることは少なく、いくつかの要因が相互に重なることによってはじめてその姿を現します。 それらのリスク要因のうちよく知られているのは、次の4点です。 数字は「児童虐待の実態II」(東京都の児童相談所が平成15年度に虐待を主訴として受理した事例を分析)より引用しました。
(1)周囲から孤立している:家族が親族、近隣等から孤立し(24%)、困った時に助けてくれる人がいない場合です。
人への不信感から助けを求めず孤立している場合もあります。
(2)家庭がストレスに曝されている:経済的困窮を抱え(31%)、夫婦の不和(20%)や夫婦間暴力(DV)、家族の病気などのストレスに曝され、家庭生活が危機に瀕している場合です。
ひとり親家庭(36%)が多いのも特徴です。
強いストレスの中で弱者である子どもをスケープゴートにしてしまうことがあります。
(3)親が子育てをうまくできない:統合失調症やうつ病などの精神疾患(10%)、アルコール依存(4%)、神経症、軽度発達障害、知的障害(2%)、若年などの問題が子育ての能力を損なっている場合があります。
さらに、親自身が虐待的環境で育っているため、子育ての方法が分からず、自分がされたように子育てをしてしまう場合があります。
これまでのいくつかの調査では、虐待を受けたことがある親が子どもを虐待する確率は20〜30%と推測されています。
(4)育てにくい子ども:子どもが知的な遅れ(8.6%)や発達障害(ADHD、自閉症、アスペルガー症候群等)や慢性疾患を有していたり低出生体重児(2.0%)であるため、育てにくく手のかかる場合や、分離の経験(4.5%)などがあり愛着関係がつきにくい場合などです。

 背景要因が何であれ、親の虐待的な子育てに曝されていると、親子の絆がうまく築けず、子どもに行動上の問題や情緒の不安定さが引き起こされていき、親の虐待行為を強めてしまうという悪循環へと陥っていきます。 「虐待」というきつい言葉の響きが、鬼のような親というイメージを生んでいますが、虐待をする親の多くは、他の親と同じように子どもを愛し大事に思っています。 大切に育てたいと思いながら、上記のストレスや愛着をめぐる葛藤から、子どもに対する感情や行動のコントロールができなくなっています。 多くの場合、必要なのは叱責や懲罰ではなく、リスク要因を減らすためのたくさんの支援の手です。

虐待問題を抱える家族への支援

虐待の社会問題化-子どもの人権という観点から
子ども虐待とは
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