東京都児童相談センター治療指導課長 犬塚峰子 虐待問題を抱える家族への支援 地域での支援 緊急に子どもを保護する必要のある場合や、虐待の子どもの心身への影響が深刻であると判断された場合は、児童相談所に通告します。 児童相談所が受理した虐待ケースのうち、施設への入所などにより親子分離となるのは1割強です。 大部分はアセスメントに基づいた支援プランを共有して、児童相談所を中心とした関係機関のネットで支えながら、地域で家族全員を視野にいれた支援を続け、子どもの成長を見守っていくことになります。 親への支援・治療 こういった問題を抱えている親に対して、「虐待のない子育てが可能になり親子関係を改善する」という目標を達成するためには、どんな支援・治療が有効なのでしょうか。 「自分が育てられたように育ててしまう」親に対して、子育て知識や技術を教える行動療法的教育的なレベルのアプローチがあります。 アメリカでは、子育て教育プログラムが虐待をした親の支援に有効性を持つものとして評価され、日本でも欧米のプログラムが紹介され実践されています。 そのほかに現実的な対人関係を改善することや認知のゆがみに気づくことや過去の被虐待体験などを言葉で表現することを促す様々な支援・治療が個別やグループで提供されていますが、まだ受け皿は少ないのが現状です。 支援・治療の場が「安心できる居場所」になり、支援・治療者と「安心できる関係」を体験すること自体が、親の子育てを適切なものにするといわれています。 その中の一つに、民間団体や保健所で実施されている自助グループ的色彩を持つ母親グループがあります。 自分を責めながら大切なわが子を傷つけることをやめられない母親に対して、自分は一人ではないと感じさせる仲間と、安心して苦しい胸のうちを自由に話し、自分の本当の気持ちや子ども時代の体験(被虐待体験など)に気づいていく場を提供し、虐待行為を減らすことに効果をあげています。
不適切な養育をする親と、その影響を受けて情緒的に混乱し無表情で関わりをもてない子どもとの間には悪循環が形成されています。 その場合、愛着関係を改善するためには、親の支援・治療だけではうまくいかず、子どもの支援・治療や親子を対象とした親子の相互作用への治療的アプローチ(親子グループ、親-乳幼児(児童)精神療法、修復的愛着療法など)を行うことが必要です。 親-乳幼児(児童)精神療法では、親子のやり取りを目の前で観察しながら親子のコミュニケーションのずれの意味を把握し、親が子どもに重ね合わせている否定的イメージ(親自身の愛着をめぐる葛藤)のありかに気づいていけるように援助していき、親の健全な養育能力を引出していきます。 支援を受けても親が子どもと向き合えない場合は、身近にいる他の大人と持続的な信頼と安心の関係をつくれるように環境を整えることが必要です。 そういう情緒的な支持を与えてくれる大人との出会いは、子どものその後の適応をよくするといわれています。 また、外傷体験からの回復には個別の心理治療が有効です。 児童相談所での介入による支援 この時に、家族再統合に向けた治療プログラムを提供できないと、親は自尊心の傷つきや喪失感などから怒りを児童相談所に向け続け、虐待への気づきや行為の修正を促すことは困難となります。 子どもも虐待を否認し親を慕うことも多いため、見捨てられ感や無力感を抱えたまま放置されてしまいます。 強制介入や親子分離を家族支援の一環として位置づけ、分離後ももう一度家族一緒に暮らせることを目指した家族支援を、施設などでの子どもの治療と連携しながら続けることが必要です。 その取り組みが今始まっています。 虐待的な子育てが改善されず一緒に暮らすことが無理という結論に達する場合でも、家族支援の中で子どもの現実的認知が可能になって、離れて生活することを自ら選ぶことができ、親も自分の子育ての限界を受け入れて、分離のまま施設などと協力して子育てをすることを選ぶことができればこれも虐待問題の一つの解決です。 もちろんその場合、施設などの生活が子どもの安心できる居場所となって人格の基礎を育むことができ、虐待の傷から回復することができてはじめて解決といえますので、社会的養護の充実が必要です。 虐待の社会問題化-子どもの人権という観点から |
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