東北医科薬科大学精神科学教室 福地 成 はじめに近年、地球規模の気候変動を背景に、地震や洪水などの自然災害が多発している。さらに新型コロナウイルスによるパンデミック、戦争や民族紛争など、かつて経験のないさまざまな緊急事態が迫っている。このような状況に対処するためには、私たちはお互いに助け合い、コミュニティーの機能を維持するための共通認識を持つことが必要である。 日本では、1995年の阪神淡路大震災を契機に、「心のケア」という概念が広く認識されるようになった。当時、被災者支援の体制は整っておらず、多くの支援団体が現地に入り手探りで支援を展開した。そして近年、さまざまな自然災害が多発しており、心のケアの重要性はさらに注目されるようになっている。これらの経験を経て、国外の対人支援指針を取り入れ、災害後の被災者を支える仕組みを整備しており、日本は災害後の心のケアに関する先進的なモデルを構築しつつある。 災害時に、配慮が必要な人々がいることが分かってきており、子どもたちはその代表である。災害時における子どもの心のケアを考える際には、子どもの発達段階によって症状が異なることを考慮する必要がある。乳幼児は環境の変化に敏感に反応し、泣きやすくなる、眠らないといった症状を示すことがある。思春期の子どもは、自分の身に起きている事柄を正確に理解する能力が備わりつつあるため、成人に近い反応を示すことがある。小学生の年代は、多様な心理的反応を示しやすく、支援者は子どもへの直接的な対処とともに、具体的な対応を提示することで保護者の不安を軽減する役割も担っている。 本稿では、自然災害後の子どもの心のケアに焦点化して稿を進める。
子どもの発達とこころの反応日本では、緊急時の子どもの心のケアの指針として、国際NGOであるセーブ・ザ・チルドレンが作成した「子どものための心理的応急処置(Psychological First Aid for Children)」が普及している1)。子どもに特化したPFAを作成した最大の理由は、緊急事態に直面したときの子どもの反応は多岐にわたるという一点に尽きる。緊急事態に直面したときの反射的な反応には差異はないものの、出来事を認識してから起こす行動にバリエーションがある。子どもPFAでは、各年代の認知能力に即して、その反応を以下のように解説している。 0 〜 3歳何が起きたのか理解できず、ただ親や養育者にしがみついたり、離れなくなったり、以前は恐がらなかったことを怖がることがある。睡眠や食事行動に変化が起き、よ り幼い行動に戻ることがある。 4 〜 6歳親や養育者(主たる愛着対象)の反応を見て、事実を推測する。ゆえに、この年代では親や養育者の支援が重要である。また、想像力豊かな内面を持っていて、創造的な考え方をすることがある。悲惨な出来事を自分のせいだと考え、現実にはないことを口にすることもある。 7 〜 12歳起きた出来事に関連することを繰り返し話したり、遊びの中で表現したりすることがある(例えば、地震ごっこ、避難所ごっこなど)。これらは、子どもにとっては、自然な記憶の処理方法でもあるため、遊びを無理に止める必要ないと考えられている。ただし、暴力的な行動を展開し、周囲に悪影響をおよぼす場合は冷静に制止することも必要である。 13歳以上緊急時の深刻さを自分の視点からだけではなく、他者の視点からも理解できるようになる。この年代では、強い責任感や罪悪感を抱くこともあり、自滅的な行動をとったり、他者を避けたり、攻撃的な行動が増すことがある。親や権威に対して反抗的になり、社会に適合するために、より仲間をたよることもある。 行動を規定する要素は年齢だけではなく、認知発達の遅れや偏りがある場合、出来事の理解に歪みが生じて、周りの支援者が想像する反応とは異なることがある。また、過去に類似した緊急事態の経験がある子どもは、同じ年代の別の子どもとは異なる反応を示すこともある。
はじめに/子どもの発達とこころの反応 |
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